日本経団連タイムス No.2808 (2006年4月6日)

「企業不祥事と社内広報セミナー」開く

−未然防止へ活動のあり方掘り下げ/公益通報者保護法への対応を探る


日本経団連の社内広報センターは3月17日、都内で「企業不祥事と社内広報セミナー」を開催した。
昨今相次いで明るみに出た企業不祥事の背景に、内部告発など組織のコミュニケーション問題が大きく関与している点に着目し、同セミナーでは、企業のブランド価値を大いに下げ、社会の信頼を損ねる企業不祥事を未然に防ぐための社内広報活動のあり方について探った。さらに、今月1日に施行された、企業のコンプライアンス(法令順守)とかかわりの深い「公益通報者保護法」の具体的内容や社内広報による啓蒙活動の方法について聴取した。

まず、東京経済大学助教授の駒橋恵子氏が「企業不祥事と社内広報」と題して講演。この中で駒橋氏は、不祥事がいつごろからニュース報道として登場してきたかを年代ごとに俯瞰。1970年代は1年間に数件、経済紙でしか報道されなかった不祥事事件が80年代ごろから急激に増え、90年代は一般紙での報道も多くなり1年間に1000件以上、2000年代になると1年間に実に1万件程度と大幅に増加、それにつれて経済事件も多発するようになったと指摘した。また、90年代以降の主な経済事件のケースをいくつか取り上げ、不祥事の発生原因について(1)社内コミュニケーションのどこかに何らかの問題があったこと(2)従業員が業務秘密こそ組織の常識と思い込み、社内常識を信じ、アンチコンプライアンス(意図的な法令無視、社会常識の無視)の意識を持っていたこと――の2点を挙げた。また、社内コミュニケーション問題の背景となる集団心理の特性についても代表的な学者の理論を紹介した。
さらに駒橋氏は、不祥事を根絶するための処方せんとして、第1にコンプライアンス(法令順守)は法務部門だけでは解決できないことを経営者が理解する、第2に上⇔下、隣の部門がよく見えるといった横⇔横の風通しがよい社内コミュニケーションの問題を総合的に検討する、第3は事件の発覚・拡大は内部告発とニュース報道からという認識を持つ、第4に危機発生時において社内への連絡体制が後手に回りやすいのでエマージェンシープランを整備する――など、全社的な社内広報戦略の必要性を説いた。
そして日常的なリスクマネジメントとしては、(1)イントラネットの充実と迅速な情報伝達(2)各事業部門の情報発信と部門間広報の促進(3)外部に言えない慣行を疑問視する意識の尊重(4)日常的な上下間のコミュニケーションの活性化など、「風通しのよい組織風土づくり」を積極的に進めること――が大事であると述べた。

続いて公益通報者保護法の4月1日施行に当たり、担当者が社内広報活動を行う上でどのような点に留意し、どういう対応をすべきかについて弁護士の深野和男氏が講演。
深野氏は同法について、不正の目的でなく社内で通報があった場合、社内の企業秩序違反や機密保持違反といった理由で、解雇や配置転換、降格処分などの不利益処分をしてはならないことを規定した法律であると説明した上で、同法が制定されたのは、企業不祥事の発生を防ぐために正当な内部告発を保護する必要性があったからであると指摘した。
通報先は(1)企業内部(2)行政機関(3)外部――の3つがあるが、(1)に対応するために社内に相談窓口をつくった場合、内部通報を行った者に対して不利益がかかるものでないことや、何かあったら利用するよう、事前に社内広報活動で従業員に周知することが大変重要であることを強調。そのツールとしては、社内報、イントラネット社内報、ビデオなどや、社内研修・説明会などを挙げた。また、社内PRのポイントとして(1)企業における法令順守の基本方針の表明(2)法の概要の周知(3)コンプライアンス窓口あるいはホットラインの設置など社内の通報処理制度の周知――などを訴えた。

【出版・研修事業本部社内広報センター】
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