日本経団連タイムス No.2811 (2006年4月27日)

中小企業委員会を開催

−「中小企業の経営戦略と人材育成・確保の課題」/川喜多・法政大学大学院教授の講演聴く


日本経団連の中小企業委員会(指田禎一委員長)は19日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。同委員会は現在、中小企業における人材育成・確保の課題について検討しており、今回は「中小企業の経営戦略と人材育成・確保の課題」と題して、法政大学大学院経営学研究科教授の川喜多喬氏から講演を聴取した。
川喜多氏は年に50社程度、現在までに合計1600社程度の中小企業を訪問している。今回は今まで訪問した企業の事例を中心に、中小企業の人材育成に欠かせない要素について説明を行った。

川喜多氏は、経営者がさまざまな形で会社のポリシーを社員に示している実態について、事例を交えながら紹介。キャッチフレーズやスローガンはないが、躾教育が良くできている会社の事例を挙げ、「この会社にとって重要なことは躾であると経営者が考え、身をもって示している。その経営者の身をもって示す態度が重要である」と指摘した。
また、毎月全社員で合宿をしている会社を紹介、「『継続は力なり』であるが、それをやるかどうかは経営者の意思である」と述べた。
さらに、経営者の意思が明確に表れている会社の事例も挙げ、人の恩を大切にする会社であることを示すために、社長室に開業の際に世話になった人物の胸像を置いている会社についても紹介した。
また、「可愛くば、5つ教えて、3つ褒めて、2つ叱って良い子にせよ」という近所のお寺の説教文句を採用している会社の例を挙げ、社員を“良い子”にしたいという情熱に燃えている経営者を紹介。その他にも、若者の気持ちを理解するために居酒屋チェーン店でアルバイトをした経営者の事例を紹介した。

川喜多氏は「人を育てるということは不易不変。その応用方法は多種多様であり、応用のできる経営者になることが重要である」と人材育成における経営者の役割について説明し、経営者自らが行動することの重要性を説いた。
その上で、中小企業の人材育成には各企業独自のノウハウが存在することを説明した。従業員の半分近くが一度世の中からドロップアウトした人間で占められている飲食業の会社事例を挙げ、「そういう人間を3年以内で店長に育てる。本当の人材育成のノウハウは中小企業にこそある」という同社の社長の談を紹介。「コアな技術を持った中小企業にとっては、(人材を)自前で育てることによってノウハウを中に残すことができる」と述べた。また「志の高い人間が会社を支える。規模のせいにするのではなく、努力を怠らないことが大事である」と強調した。
そのほか、大企業の退職者を採用して業績を伸ばしている会社や、自分の仕事の生きがいを貫くために大企業を辞めて会社を興した経営者を紹介し、大企業のリストラ等によって有為な人材が中小企業にとってプラスになっていることについても言及した。
さらに会社の中に塾を開き、有能な若手に毎月、会社の問題を議論させている経営者の事例を挙げ、厳しい競争の中で質の高い人材を育てるためには人の管理も重要になってくることを強調した。
最後に川喜多氏は中小企業の人材育成について「経営者は自ら思考し、それを自ら実行し、責任を持たねばならない」と結んだ。

【労働政策本部労政・企画担当】
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