日本経団連タイムス No.2812 (2006年5月11日)

「労働安全衛生マネジメントシステムと企業のベストプラクティスの活用」探る

−NICCがアジア諸国経営者団体と「共同研究」


日本経団連の関連組織である財団法人日本経団連国際協力センター(NICC、奥田碩理事長)が、2005年度の事業として厚生労働省の委託を受けて実施したアジア諸国経営者団体との「共同研究」の結果がまとまった。
この「共同研究」は、アジア各国の企業が直面する共通の経営課題を取り上げ、各国の経験や知識の交流を通じて、課題克服の方策を探ると同時に、経営者団体間の連携強化に結びつけることを目的に、毎年NICCの国際協力事業の一環として実施されているもの。
12回目を迎えた05年度は、「労働安全衛生マネジメントシステム(OSH―MS)と企業のベストプラクティスの活用―企業のグローバル競争力強化のために」をテーマに、アジア13カ国の14の経営者団体(インド2団体、パキスタン、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、カンボジア、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、シンガポール、ベトナム、中国)の参加を得て行われた。

「共同研究」ではまず、各国の経営者団体が選定した労働安全衛生のベストプラクティス企業の意識と実態に関するアンケート調査を実施。この結果、参加各国の先進企業65社における労働安全衛生への取り組み状況が明らかになった。主要な点は次のとおり。

  1. 57%の企業は、既に全社をカバーする効果的なOSH―MSを自社内で確立しており、「一部導入」(27%)を含めると80%以上の企業がマネジメントシステムを活用して労働安全衛生の向上に取り組んでいる。
  2. 95%超の企業が、労働安全衛生への取り組みはコストアップにつながるのではなく、働く人々や企業の価値の向上、競争力の向上につながるという考えに同意しており、ほとんどすべての企業が、自社内に「安全文化」を確立することが重要だと回答。
  3. 先進企業では、労働安全衛生に対する明確な方針が確立され、組織・体制も整備されており、経営トップの参画と、組織横断による「委員会」の設置が有効だとの認識で一致。
  4. 自社の強みとしては、(1)トップのコミットメント(2)方針の確立(3)職業性災害の予防(4)OSHトレーニング――が多く挙げられ、逆に弱みとしては、(1)企業内の専門的技術・知識(2)「安全文化」(3)労働者の参加――が多く挙げられた。

同時に実施された共同研究参加の経営者団体に対する調査結果からは、主に次の点が明らかになった。

  1. 各国とも労働安全衛生に関する法律や基準の整備によって、職場における労働安全衛生に対する認識は着実に高まっており、取り組みも進んでいる。また、(1)新しいトレーニング・プログラムが開発されたこと(2)国を挙げての促進キャンペーンの展開(3)大企業による支援の提供(4)OSH―MSの活用(5)国際的な基準やガイドラインの普及(6)労働組合の積極参加――なども、最近の取り組みを促進させている要因になっている。
  2. ただし、企業規模や業種によって、取り組みには依然格差があり、小規模事業者、建設業、製造業、運輸業での取り組み推進が優先課題となっている。

特に中小企業での取り組みを促進するためには、幅広い支援を行うことが重要であり、労働安全衛生担当者に対するトレーニングを提供することが不可欠である。

NICCでは、「アジア各国の経営者団体や傘下の企業が、今後めざすべき労働安全衛生のあり方や具体的な方策についての貴重な示唆を得ることができた。また、アジアの先進企業が、環境経営に次いで労働安全衛生の分野においてもマネジメントシステムをいち早く取り入れて、国際競争に対応しようとしている姿は、日本の企業関係者にも参考になるはず」と評価している。

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「共同研究」の詳細に関する問い合わせは、NICCプロジェクト推進部(電話03―5283―5252)まで。

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