日本経団連タイムス No.2814 (2006年5月25日)

「日本企業の中国におけるホワイトカラー人材戦略」発表

−優秀人材確保と定着へ


日本経団連は16日、報告書「日本企業の中国におけるホワイトカラー人材戦略」を発表した。同報告書は、グローバル展開を活発に行っている企業約40社で構成される国際労働委員会(立石信雄委員長)が、各社の経験も踏まえて検討し、まとめたもの。中国における事業活動において、中国人ホワイトカラーの優秀人材の確保と定着に向け、日本企業はどのような人材戦略を構築していくべきか、基本的な方向性を示すガイドラインとなっており、会員の参考に供することを狙いとしている。

近年、日本企業は急速な経済成長を続ける中国に積極的に進出しているが、さまざまな経営上の問題に直面している。中でも人事管理上の問題が大きく、特に中国人の優秀なホワイトカラー人材が採用できない、採用してもすぐに退職してしまうといった問題を抱えている。
同報告書は、(1)先進的な日本企業はこのような課題に対しどのような取り組みを始めているか(2)相対的にうまく対処できているといわれる欧米企業の人材管理はいかなるものか(3)一般的に中国人はどのような仕事観を持っているか――を分析し、その上で、中国人ホワイトカラー人材の確保と定着に資する人材戦略を提起している。
同報告書の概要は次のとおり。

◇ ◇ ◇

企業の取るべき対応として、まず第1に必要なことは、中国で事業を推進する大前提として、中国現地法人をグローバル戦略上どのように位置づけるかという経営戦略を確立し、その上で現地社員にどこまで権限委譲するかという現地化ポリシーを策定し、必要な現地社員の人材像を明確化することである。

第2は、中国人が働きたいと感じるような企業の魅力を構築し、発信することである。その魅力には2つの重要な要素があり、(1)自分自身の成長や価値向上が感じられること(2)所属する企業が大きな存在感を持つこと――であるとされている。本人の価値向上が感じられるようにするには、メリハリのある公正で透明な評価制度、成果を反映する適正な報酬水準、Off―JTを含む多くの技能向上機会の提供など、人事制度改善による対応が考えられる。また、企業の価値や存在感が感じられるようにするためには、自社の経営理念や企業ブランドを中国社会に積極的にアピールしたり、社内外に向けた企業広報、コミュニケーションを充実させることなどが考えられる。

第3に、欧米企業との差別化によって、人材確保の面でも競争力を高めるためには、日本的経営の特質を活かすことが重要である。日本企業は、社内の日常的なコミュニケーションによって社員間の協働意識を醸成し、その結果生み出された組織力や現場力の強みなどを発揮してきた。そのような特質を中国でも活かすには、「個人主義」といわれる中国人社員に、一方的に押し付けるのではなく、例えば部下の育成やチームワークを人事評価システムに反映させるなど、現地社員に自然に受け入れられるような仕組みを構築していくことが欠かせない。

最後に、中国における人材戦略とはいえ、日本本社が果たす役割も重要だと考えられる。経営トップは経営理念や企業文化の伝道者としての役割を果たすこと、本社組織は国際的な感受性やリスク感覚を研ぎ澄ますこと、また現地に出向・派遣されている日本人社員は円滑な事業運営に努めるとともに、現地社員の育成・指導をしっかり行うことが求められる。

【労働法制本部国際関係担当】
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