日本経団連タイムス No.2829 (2006年9月14日)

第14回ILOアジア地域会合開く

−ディーセントワーク実現へ議論


8月29日から9月1日まで、韓国・釜山において第14回ILO(国際労働機関)アジア地域会合が開催された。ILOでは、地域固有の問題について政労使が議論する地域会合を4年ごとに開催しており、今回は、アジア太平洋・アラブ地域の40カ国から約400人が参加、アジアでいかにディーセントワーク(人間らしい労働)を実現するかをめぐって議論を行った。

開会式では盧武鉉・韓国大統領が歓迎あいさつを行い、グローバリゼーションによってアジアの多くの国が力強い成長を遂げてきたが、他方で所得格差の拡大も生じており、問題の解決には域内の各国が協力して経験を交換することが重要であると述べた。

ディーセントワークは、今の時代にふさわしいILOの活動目標としてソマビア事務局長が打ち出したものであるが、前回2001年の同会合は、各国がそれぞれにディーセントワーク実現のための国家計画を作成するとの結論を出し、いち早くこの問題に取り組んできた。
ソマビア事務局長は会議の冒頭、ディーセントワークという概念が、昨年9月の国連首脳会合の成果文書や今年7月の国連経済社会理事会のハイレベル部会における閣僚宣言に盛り込まれ、グローバルなゴールとしても認知を受けるに至ったことを紹介、今回の会合では、そのようなディーセントワークをアジアにしっかり根付かせるための積極的な議論をしてほしいと促した。その上で、アジアはこの10年、世界平均の2倍の水準で成長し、労働生産性も劇的に向上しているが、それにもかかわらず失業や不完全就労、貧困が存在しており、経済成長を雇用の創出や貧困削減に確実に結びつけていく方策を見いだすことが課題であると述べた。

テーマに「競争力」や「生産性」

会合では、ディーセントワークをめぐるアジアにとっての共通課題として、(1)競争力、生産性と仕事(2)労働市場のガバナンス(3)若年雇用(4)国際的な労働移動――の4つのテーマについて、分科会でパネル討議を行った。アジア地域の構成国は多様で、各国の状況によって問題の背景も異なることからその対応策も一律ではないことを前提とした上で、情報交換を通じてさまざまな成功例や失敗例から学ぼうと活発な意見交換が行われた。
雇用の創出や労働条件の向上の源泉は企業の成長にあると長年主張してきた使用者側にとっては、ILO会議の討議テーマとして「生産性」や「競争力」が取り上げられたことは画期的な出来事であった。使用者側はこれを歓迎し、生産性の維持・向上のためにはビジネス環境の改善や人材の能力向上が必須であると主張した。
いずれのテーマにおいても、教育・訓練による人材育成の重要性が指摘され、また、各国が最も適切な対応策を講じるには3者構成の仕組みによって労使の参画を得ることが必要との意見が多数述べられた。

閉会式では、会議を通じての議論を集約した結論を採択。2015年までをアジア・ディーセントワークの10年と定め、集中的な努力を展開する参加者の決意を示した。今後の各国の取り組みの優先事項としては、(1)中核的労働基準の批准(2)持続的な生産性向上と競争力ある経済の推進(3)エンプロイヤビリティを高めるための教育訓練や生涯教育(4)若者のための就労機会や起業支援(5)労・使団体の能力向上と労使協力の推進(6)労働法の適用徹底と時代に即した見直し(7)外国人労働者の権利を十分に保護できるような就労制度の運営――などを促進していくことが挙げられた。また、ILOに対して、このような各国の取り組みへの支援を求めた。

日本の使用者を代表して出席した鈴木俊男ILO使用者側理事(日本経団連国際協力センター参与)は使用者側グループのスポークスマンとして、グループの意見の集約と本会議での発表の役割を担った。

【労政第二本部国際労働担当】
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