日本経団連タイムス No.2831 (2006年9月28日)

「ネットワークの中立性」に関する日米通信政策カンファレンス開催

−日米両国の専門家が参加/講演やパネルディスカッション展開


日本経団連は21日、東京・大手町の経団連会館で、甲南大学通信情報研究所との共催により「ネットワークの中立性」に関する日米通信政策カンファレンスを開催した。同カンファレンスでは、ノーム・米国コロンビア大学教授、ペッパー・元FCC(米国連邦通信委員会)電気通信政策局長、谷脇康彦・総務省電気通信事業部料金サービス課長、佐藤治正・甲南大学教授はじめ日米の専門家の参加を得て、講演およびパネルディスカッションを行った。
IP化に伴い、通信市場では情報がデジタル化されて、ブロードバンド網を介して自由に流通する形態が一般的になりつつあり、従来の通信・放送等の縦割りの市場構造がレイヤー型のネットワーク構造へと移行しつつある。一方、米国等を中心に、利用者がIP網を利用して、平等かつ自由にコンテンツやアプリケーションにアクセスすることを確保するため、「ネットワークの中立性(network neutrality)」という新たな概念が登場している。

講演の中で、ペッパー氏は、米国におけるネットワークの中立性は、通信事業者がサービスプロバイダーをネットワークのアクセスで差別してはならないという意味で用いられていたが、現在、通信事業者がグーグルなどのコンテンツプロバイダーに対して、ネットワークへの負担に応じた追加的な料金を課すことの是非をめぐる議論も加わっていると述べた。ネットワークの中立性の法制化の状況に関しては、昨年8月にFCCが4原則からなるブロードバンド政策宣言を公表したことを契機に、今年に入り、さまざまな法案が上下両院に提出されているが、中立性をめぐる議論はその定義や法制化の必要性をめぐり対立があり、年内に法制化される可能性は低いとの見通しが示された。

また、ノーム教授からは、中立性を確保する方策として、通信事業者のアクセス網のうち、コンテンツプロバイダーがエンドユーザーに接続する上で必須のラストワンマイル部分に対して、無料・無制限でアクセスできるようにする仮説が提示された。

谷脇課長からは、日本の状況に関し、IP化に伴い通信事業者など下位レイヤーの市場支配力が、コンテンツプロバイダーなど上位レイヤーに及ぶ可能性があり、レイヤー間でどのように中立性を確保するのかという、ネットワークの利用の公平性と、ネットワークに係るコストを誰がどのように負担するのかという、コスト負担の公平性という2つの課題が議論されているとの指摘があった。

続くパネルディスカッションでは、ネットワークの中立性の定義・範囲や、中立性の確保のあり方について議論がなされた。
定義や範囲については、米国では明確な定義についてのコンセンサスがないまま、さまざまな理解の下に議論がなされていることが問題であるとの指摘がなされた。また、米国の中立性の議論は、IPネットワーク全体の話か、それともいわゆるインターネットのみが対象となっているのかという会場からの質問に関し、ペッパー氏からは、帯域保証のされていない一般のインターネットのみを対象としているとの回答があった。

最後に、モデレーターの佐藤教授が、中立性の確保のあり方については、競争が最善の策であり、不必要な規制は望ましくないと総括した。

【産業第二本部情報通信担当】
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