日本経団連タイムス No.2833 (2006年10月12日)

資源・エネルギー対策委員会を開催

−「原子力の課題と対応(原子力立国計画)」/望月・資源エネルギー庁長官から聴取


日本経団連は3日、都内において、望月晴文・資源エネルギー庁長官を来賓に招き、資源・エネルギー対策委員会(柴田昌治委員長)を開催した。また関連して、日本原子力産業協会の服部拓也副会長から、同協会の活動状況を聴いた。
望月長官は「原子力の課題と対応(原子力立国計画)」をテーマに講演し、その後、出席者と意見交換を行った。望月長官の講演の概要は次のとおり。

1.なぜ原子力が必要なのか

原子力発電は、総発電電力量の約3分の1を占める基幹電源(現在55基)であり、エネルギー安定供給と地球環境対策の切り札といえる。
米国では約30年ぶりに原発の新規建設へ動き出し、政府も使用済燃料のリサイクルと高速炉路線に転換した。英国やフィンランドでも新規建設の促進へ方針転換が図られ、中国、インド、ロシアでは、おのおの20基前後の新規建設が計画されている。
わが国のエネルギー自給率は、わずか4%であり、主要先進国の中で最低水準にとどまっている。
世界的に激しい資源獲得競争の時代に突入した現在、わが国としては、エネルギー自給率の向上にも資する原子力の活用に注力する必要がある。

2.「原子力立国計画」の位置付け

昨年10月に閣議決定された「原子力政策大綱」の基本目標((1)2030年以後も発電電力量の30〜40%程度以上(2)核燃料サイクルを推進(3)高速増殖炉の実用化をめざす)を実現するための具体策を検討してきた結果、「原子力立国計画」を取りまとめ、今年5月に策定した「新・国家エネルギー戦略」の一部に組み込んだ。今後は、年末に改定されるエネルギー基本計画にも反映する考えである。

3.今後の原子力政策の5つの基本方針

原子力施設の建設・廃止をはじめ、放射性廃棄物の処分等、あらゆる段階における安全性の確保を大前提に、国民の理解・協力を得つつ、次の5つの基本方針に基づき原子力政策を進めることが重要である。

(1)「中長期的にブレない」確固たる国家戦略と政策枠組みの確立

原子力政策は、市場に委ねるだけでは推進できず、国家的な戦略として考えることが必要である。民間事業者が安心して投資を行えるよう、中長期的に方向性のブレない確固とした安定的な政策でなければならない。

(2)国際情勢や技術の動向等に応じた「戦略的柔軟さ」の保持

民間事業者の投資環境は、技術の開発状況や国際情勢等不透明な要素に支配されており、具体的な個々の施策や時期については、柔軟さをもって対処することが必要である。

(3)国、電気事業者、メーカー間の「三すくみ構造」の打破

ここ数年、原子力政策については、電力自由化、核燃料サイクルをめぐる論争等があり、官民一体となった明確な方針が打ち出せず、国、電気事業者、メーカーのいずれも自ら中長期的な戦略策定のイニシアチブをとらない、いわゆる「三すくみ」構造に陥っていた。中長期的に原子力発電を発展させていくためには、関係者間の真のコミュニケーションを実現し、ビジョンの共有を図ることが必要である。そのためには、まずは国が大きな方向性を示して最初の第一歩を踏み出すべきである。

(4)国家戦略に沿った個別地域施策の重視

原子力政策は、個別の立地地域の理解を得られない限り、絵に描いた餅になりかねない。今後の原子力政策は、「国家戦略」であると同時に「個別地域施策」を重視した現場主義に基づいて推進することが重要である。

(5)「開かれた公平な議論」に基づく政策決定による政策の安定性の確保

従来の原子力政策の企画立案は、ともすれば都合の悪い論点が明示されないきらいがあり、十分に情報が開示されず、かえって基本方針自体が揺らぎかねない不安定性があった。
今後、原子力政策を国民の理解を得ながら安定的に推進するためには、「開かれた公平な議論」に基づく政策決定への転換が不可欠である。

4.政府のアクションプラン

「原子力立国計画」を受けて、政府から提示された今後の施策は次の10項目である。

  1. 電力自由化時代の原発の新・増設実現
  2. 安全確保を大前提とした既設炉の活用
  3. 資源確保戦略の展開(中央アジアとの厚みのある戦略的協力関係の構築等)
  4. 核燃料サイクルの推進と関連産業の戦略的強化
  5. 高速増殖炉(FBR)サイクルの早期実用化
  6. 次世代を支える技術・人材の厚みの確保
  7. わが国原子力産業の国際展開支援
  8. 原子力発電拡大と核不拡散の両立に向けた国際的な枠組みづくりへの積極的関与
  9. 国と地域の信頼強化、きめの細かい広聴・広報
  10. 放射性廃棄物対策の強化

今後は、政府、電気事業者、メーカー、研究機関、学界が一体となって、計画の実現に向けた取り組みが進められることを強く期待している。

【産業第三本部資源・エネルギー担当】
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