日本経団連タイムス No.2835 (2006年10月26日)

国際協力委員会を開催

−わが国ODAを取り巻く現状と今後の課題/外務省の別所・国際協力局長、深田・国際協力局審議官から聴取


日本経団連は12日、東京・大手町の経団連会館で国際協力委員会(西岡喬委員長、辻亨共同委員長)を開催し、外務省の別所浩郎国際協力局長と深田博史国際協力局審議官から、わが国ODAを取り巻く現状と今後の課題について説明を受けるとともに懇談を行った。概要は次のとおり。

民間からの助言と支援を

〈別所国際協力局長説明概要〉

外務省では8月1日に組織改革を行い、国際協力局を新設した。私自身は小泉純一郎前総理の秘書官を務めていたため、2カ月遅れの着任となった。約5年半、小泉前総理に仕えたが、その間、数多くの開発途上国の人々が小泉前総理を訪問した。そういう機会を通じて、途上国から民間投資への期待と同時にODA要請、インフラ整備や人づくりへの協力への期待がまだまだ強いと痛感した。
一方で、ODAを従来とは異なった形で活用しようという動きが出てきている。例えば、貿易自由化のための開発イニシアチブ、EPA(経済連携協定)における国際協力、地域の安全・シーレーン確保、エネルギー問題などにおける協力がある。これらの新しい需要にも対応し、企画立案機能を強化するため、今回の機構改革を実施した。
2008年は、サミット(主要国首脳会議)がわが国で開催される。TICAD(アフリカ開発東京会議)もある。新JICA(国際協力機構)も発足する。そうした中、わが国ODAについては、財政が逼迫する状況下で、今後5年間に100億ドル積み増すと国際公約している。サミット議長国として世界に発信しなければならないが、ODAについては量的にも質的にも、それにふさわしいものにしなければならないと考えている。民間の皆さんの助言、支援をいただきたい。

プロジェクト迅速化が重要

〈深田審議官説明概要〉

わが国のODAを取り巻く環境は大きな変革期にあり、新たなパラダイムが求められている。かつてわが国では、輸出振興や黒字還流といった「国内要因」によって、比較的容易にODA予算を獲得できたが、今ではそうしたドライブがかからなくなった。1990年代初めの冷戦の終焉によって、開発途上国を西側に取り込む必要がなくなったため、国際的にODAの熱が冷めたが、この時、わが国としていかに国際貢献するかという国民的な議論が必ずしも十分行われず、国民的コンセンサスが形成されなかったことも一因である。わが国の今後のODAのあり方を考えるべき時期に来ている。
私なりに考える新しいODAは、「次世代に通じるODA」だ。わが国が将来においても国際社会で生き延びていくためには、技術大国として尊敬を勝ち得るしかない。日本の知識・経験、良質な技術といった「ジャパン・クオリティ」を他国に伝播することが必要だ。そしてその主体は、官でなく民だ。ODAの使い方も変わってきており、さまざまな意味で今、ODAのルネサンスの時代を迎えているといってもよい。

ODAの重点対象地域は、今後ともアジアであることに変わりはない。しかし、それは今までのような「日本のためのアジア」ではなく、アジアという市場をいかに育て、そこで日本がいかに生き残るかという視点が必要だ。
北京五輪が開催される2008年に対中円借款が終了するが、環境、省エネなどの中国が抱える問題を、引き続き技術協力などで支援する必要がある。中国以外にも、「チャイナ・プラスワン」の有力候補であるベトナム、既にわが国最大の円借款供与国となっているインド、石油・ガスなどの資源外交の観点からも重要なインドネシア、ASEAN後発国であるラオスやカンボジアなどに対し、どのようなODAを展開すべきか考える必要がある。
重点分野としては、インフラ整備に加え、制度構築、人材育成、知的財産権など日本のノウハウを活かした協力が挙げられる。また、EPAの促進のような他の政策課題との連携の視点も重要だ。

ODAのシステムも50年経ち、「ガチガチ」になっている。08年10月に新JICAが発足することになっているが、これをより柔軟なODA制度にする絶好の機会としたい。そのため、円借款と民活の連携を推進するための具体的な仕組みを、よく検討したい。
特に、技術協力、案件形成段階の業務フローの大胆な統一、具体的プロジェクトに結びつかない調査のための調査の廃止、STEP(本邦企業活用条件)の拡充などを考えたい。また、何よりプロジェクトの迅速化が重要であり、業務フローの全面的な見直しを行いたい。

【国際第二本部国際協力担当】
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