日本経団連タイムス No.2839 (2006年12月1日)

貿易諸制度の抜本的改革求め提言

−グローバル・サプライチェーン踏まえた具体的改革の方向提示


日本経団連は11月21日、提言「貿易諸制度の抜本的な改革を求める―グローバル・サプライチェーンを踏まえた具体的改革の方向」を公表した。

日本経団連では、わが国産業の国際競争力強化の観点から、2004年6月、関係8団体とともに「輸出入・港湾諸手続きの効率化に関する提言」を取りまとめ、特にITを活用した物流効率化とセキュリティ確保の両立を訴えた。その結果、FAL条約#1批准により、船の出入港手続きに必要な項目が600から200に削減されたほか、コンプライアンスの優良な輸出者は自社施設から通関できる特定輸出申告制度の導入など貿易諸制度の改善が図られた。
しかしながら、この取り組みは、省庁縦割りの弊害で、各省庁が所掌範囲の中でそれぞれ進めているため、貿易諸制度が、経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)などの国家を挙げて展開されている通商戦略や国際的な動向を反映したものとはなっておらず、その結果、企業がグローバルなビジネスを展開する上で大きな支障が生じている。そこで、今回の提言では、特に「貿易に関する組織・制度のあり方」に焦点を当て、円滑な貿易の実現に向けた抜本的な改革の必要性について改めて意見を取りまとめた。

提言では冒頭で、わが国の貿易制度・インフラが、こうしたグローバルなサプライチェーンを展開する企業のビジネスの実態に即しておらず、アジア諸国と比べても、既にその優位性を失っているという点や、世界税関機構(WCO)で合意形成を受けて各国が迅速にその対応策を構築しているにもかかわらず、わが国政府に積極的な対応がみられない点などを指摘している。
これらの問題は、わが国全体としての国際競争力にかかわる問題であることから、提言では、4項目の要望を取りまとめている。

効率化とセキュリティ両立を目的の制度・システム設計など

第1の項目は、「効率化とセキュリティの両立を目的とした制度・システム設計」である。具体的には、世界税関機構における合意を踏まえたコンプライアンス・プログラムの構築、保税搬入原則の見直しなど企業の視点に立った輸出入通関制度の抜本的な見直しを求めている。
第2の項目は、「原産地証明に関わる制度・手続きのさらなる弾力化」である。国家戦略としてのEPA、FTAが各国との間で締結されていながら、それを活用しようとすると、企業は実務面で負担が強いられ、結果的に協定の最大のメリットである特恵関税の適用を受けにくいという問題が生じている。そこで、原産地証明書発給実務の簡素化、迅速化と原産地規則の透明性・利便性の向上を求めている。
第3の項目は、「港湾行政における広域連携のあり方と手続きの改善」である。地方自治体ごとに分かれている港湾行政における国家戦略との整合性確保や広域連携の強化を要望している。具体的には、米国などで実現されている広域的な管理の手法であるポートオーソリティ#2の実現を求めている。
第4の項目では、第1項から第3項で挙げた諸問題を解決するために、財務省、経済産業省、国土交通省など各省庁間の連携を強化し、横断的に政策調整・意思決定を行うよう訴えている。そのため、内閣に調整本部を設置し、通商戦略の司令塔として担当大臣を任命し、メンバーには民間有識者も加えることを提案している。

日本経団連では、今回の提言が安倍内閣が掲げている「アジア・ゲートウェイ構想」においても反映されるよう要望していく考えである。

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FAL条約(Convention on Facilitation of International Maritime Traffic)
国連の機関である国際海事機構(IMO=International Maritime Organization)の下、50余りある協定の1つ。国ごと、当局ごとに異なる情報を異なるフォーマットで要求され海上輸送が複雑化する傾向にあることから、手続きの簡素化の統一的な推進を目的として、1965年採択。2005年9月日本も批准、60日後の11月1日発効した(米国・シンガポール1967年、中国1995年、香港1997年、韓国2001年)。
ポートオーソリティ(PortAuthority)
欧米における港湾の管理組織の一形態であり、公共企業体方式によって運営されるものをいう。ロッテルダムおよびニューヨークのポートオーソリティがその代表的なものであり、独立採算を基本とし、単に港湾ばかりでなく、空港、バスターミナルなども包含して管理運営している。
【産業第一本部国土担当】
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