日本経団連タイムス No.2845 (2007年2月1日)

地域活性化委員会・企画部会合同会合開く

−「芸術(アート)による地域活性化」


日本経団連の地域活性化委員会(辻井昭雄委員長)は1月17日、東京・大手町の経団連会館で同委員会企画部会(横山敬一郎部会長)との合同会合を開催した。今回は、「越後妻有(えちごつまり)・大地の芸術祭」の総合ディレクターである北川フラム氏から、「芸術(アート)による地域活性化」について講演を聴取。北川氏は、世界でも有数の豪雪地であり、過疎の進む土地に、奇抜というイメージのある現代アートを融合させていく過程での苦労話を紹介するとともに、「変わらないことが地域の魅力でもある。地域を理解し、顕在する魅力を最大限に引き出せたからこそ、地域住民にも理解・協力を得ることができた。アートによって人と場所、人と人をつないだが、交流・協働を生み、住民を元気にしていくといった視点は地域活性化に大切な要素」と語った。講演終了後は、前回に引き続き、地域ブランド推進に必要な施策についての意見交換を行った。北川氏の講演要旨は次のとおり。

「越後妻有・大地の芸術祭」総合ディレクター・北川フラム氏から聴取

大地の芸術祭は、主に3つの点で評価された。

第1に「里山」の魅力である。760平方キロメートルという広い地域に、昨年は330を超えるアートを点在させたが、35万人が平均2泊3日で滞在した。炎天下で広い地域を見て歩かねばならないことに、はじめは不満を言う者も多いが、里山の中で五感が反応する“開放”された喜び、日本人のDNAにある原風景への郷愁などに気づき、感動する。人間の身体全体に伝わってくる感覚が、里山の魅力である。

第2に都市と地域の関係性である。20世紀はあらゆることを都市が解決する“都市の時代”だと言われた。しかし、21世紀になって都市が万能でないことがわかり、都市と地域がもう一度違う形でつながる時代になってきている。また、現在の価値観は、最大の情報に最短でアクセスするということにあり、常にいろいろな情報、衣服・料理などのブランドショップが集まるところに人が集まるが、より強力なところが出てくればそちらに移ってしまう。しかし、四国八十八カ所めぐりは常に人気があり、金毘羅の千段の石段を、都市ではドアツードアを求めるお年寄りが喜々として登っている。都市では、「効率」を求めても、地域では自分の身体に関わることと理解できるのである。
ところで、越後妻有の200の集落は、中心から遠いという効率の悪さから、除雪もされず、冬は市内で生活するよう言われている。しかし、そのような切り捨てがあってはならないと、200の集落全部が関わるようアートを点在させた。
一方、美術の新しい可能性、都市の美術館の美術から地球全体の美術へという21世紀型アートの流れも見えてきた。

第3に人と人との関わり方である。越後妻有の中山間地の過疎地で農業をやってきたお年寄りたちと、都市から来たアーティストや学生という、地域・世代・ジャンルが180度違う人たちが「協働」することで地域が変化し、活きてきた。
最初は、学生など若い人たちが中心であったが、都市の会社の役員や大学関係者など多くの人々も手伝い、“ふるさと”づくりに向けて動き出した。東京では、850円の時給に対し、「AさんがいなくなればBさんで結構」という関係だが、越後妻有では「○○さん、“あなた”が来てくれましたね」、という固有名詞で呼ばれる関係である。

昨年は200を超えるアーティストが参加した。3年間準備して1回の展覧会を行うが、8億円の費用がかかった。そのうち公費が4分の1(約2億円)、企業および外国その他の協賛が2分の1、残り4分の1が入場料収入となっている。
さらに、越後妻有では、廃屋を修復して宿泊施設を整え、地域住民が運営し始めたほか、新たに公共事業の取り込みをしている。公園やベンチの設置計画があると時間をかけて話し合い、その一部にアーティストやデザイナーが関わる。最初は反対もあったが、今はハードからソフトへという流れができつつある。大地の芸術祭はチャンスをうかがいながら、そういった地域自立に向けた地道な活動を丁寧に続けている。

【労政第一本部企画担当】
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