日本経団連タイムス No.2851 (2007年3月15日)

産業問題委員会を開催

−マッキンレーIOM事務局長から国際的人の移動の現状と課題聴く


日本経団連の産業問題委員会(岡村正委員長)は6日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。当日は来賓のブランソン・マッキンレー国際移住機関(IOM)事務局長から、国際的な人の移動に関する現状と課題について説明を聴いた。
マッキンレー氏の説明要旨は次のとおり。

モノ・カネ・サービスの分野を中心に進行しているグローバル化は、必然的に人の移動にも影響を与える。技能者を含む労働力の不足に対処する上では、外国人材の受け入れが不可欠である。また、国際的な競争力を保つ上で必要な高度人材を、国籍にかかわらず採用しなければならない。しかしながら、国境を越えた人の移動は依然低いレベルにとどまっており、これが「グローバル化に残された最後の課題」といわれるゆえんである。

多くの国々は、これまで外国人材の受け入れに慎重であった。しかし、日本を含む先進諸国では、分野によっては少子・高齢化に伴う労働力不足が生じており、外国人材に対する需要が増加している。外国人材の受け入れは労働力不足の解消や多様なノウハウの獲得による生産性の向上に貢献する一方で、「文化的多様性と社会の一体性の維持」という課題も提起している。

国際的な人の移動は、送り出し国にとって、頭脳流出(特に医療や教育等のサービス分野)という問題があることは否めないが、海外からの送金、高度な知識・技能の移転、自国における失業率の減少等のプラスの効果をもたらす。言うまでもなく外国で就労するかどうかを最終的に決断するのは本人であり、職業選択の可能性を広げるとともに、新たな人々・文化と出会い、人格を形成していくことが重要である。

送り出し国と受け入れ国双方の利益にかなうのは、外国で一定期間就労し、出身国へ帰国し、場合によっては再度外国で就労するという非定住・循環型の人の移動であると考える。非定住・循環型の移動は、受け入れ国にとって、労働力需要の変化に柔軟に対応できる点がメリットである。送り出し国にとっても、本国との結び付きが強い分だけ、送金、専門知識の移転等の面でより利益を多く得ることができるほか、一定期間を置いて技能労働者が帰国するため、頭脳流出にも歯止めが掛かる。

多くの国々が外国人材の受け入れに際して二国間協定を活用している。二国間協定は、送り出し国と受け入れ国の双方が国境を越えた人の移動の管理に係る責任分担を明確にし得る点が最大のメリットである。看護師・介護士の受け入れについて定めた日本・フィリピン経済連携協定(EPA)はその一例であり、日本にとって重要なステップであると評価している。また、二国間協定に基づき、官民が連携して外国人材の受け入れに当たる事例もある。エクアドルとスペインの二国間協定では、スペイン政府が自国企業の求人情報をエクアドル政府に提供し、インターネットを通じて求職者に伝達するスキームが導入されている。

IOMでは国際的な人の移動を活性化すべく、「国際的な移住と開発イニシアティブ」(IMDI)を推進している。同イニシアティブは、各国の労働市場や労働関連法制等に関するデータベースの構築を通じて、労働需給の調整を促進することを目的としている。経済界は将来の国際的な労働市場の動向を占う上で中心的な役割を持つとともに、労働需給の調整機能が向上することによってだれよりも利益を得る当事者である。IOMの活動に対し、一層の理解をお願いしたい。

【産業第一本部産業基盤担当】
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