日本経団連タイムス No.2851 (2007年3月15日)

レイダー米国CAFC判事と懇談

−米国の特許法改正で意見交換


企業経営にとって知的財産権の重要性は、ますます増大している。日本経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会企画部会(加藤幹之部会長)を開催し、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)のランドール・R・レイダー判事から、現在米国で検討されている特許法の改正の動きについて説明を受けるとともに、意見交換を行った。

レイダー判事は、米国で起こされたすべての特許訴訟の控訴審である、米国連邦巡回控訴裁判所の判事を1990年から務めている。裁判官としての仕事に加え、同判事は、バージニア大学、ジョージタウン大学、ジョージワシントン大学といった、米国の著名なロースクールで教鞭をとるとともに、多くのロースクールで採用されている教科書を執筆することで、後進を積極的に指導している。さらに同判事は、各国で開かれる特許法に関するセミナーで精力的にスピーチも行っており、現在知的財産分野で最も著名な判事の1人である。グローバルに活動する日本企業にとって、特に注目に値する、米国特許法の改正や米国裁判所の判例の動きに関するレイダー判事の説明は、次のとおり。

現在米国連邦議会には、米国特許法を改正するためのさまざまな法案が上程されている。その中には、米国特許法に特有の制度を変えようという提案が含まれている。すなわち、(1)複数の人が同じ発明をした場合に、だれに特許を付与するかという問題に関し、米国だけが採用している先発明主義(先に発明した人に特許を付与する制度)を諸外国と同様の先願主義(先に特許出願した人に特許を付与する制度)に変更するとともに(2)特許出願の中に発明を実施するための最良の形態が記載されていなければ特許を付与しないという、米国特許法だけが要求しているベストモード要件を撤廃するというものである。これらは全世界で米国だけに特有の制度であり、これらが変更・撤廃されれば、世界の特許制度のハーモナイゼーション(調和)に大きく貢献すると思われる。ただし、連邦議会で法案が可決されるまでには1、2年はかかるかもしれない。

懇談において、日本経団連側の質問に対してレイダー判事は、「米国で出る多数の訴訟の中から最も重要なごく一部だけしか取り上げない米国連邦最高裁が、ここ1年の間にこれまでとは比較にならないほど積極的に特許法関連判決を下そうとしていることは、世界中で特許法の重要性が高まっていることの証左である」「米国巡回控訴裁判所は、各判決・特許法の解釈の間のコンシステンシー(一貫性)を維持すべきで、時々の行政府の党派性・政治論調に左右されるべきではない」、また「研究や製造設備を持たず、個人発明家や企業等から安価に特許を買い集め、購入特許を侵害している企業を見つけては巨額の損害賠償金やライセンス料を得ようとする者、いわゆるパテントトロールの問題には、特許権の所有者の性格いかんにかかわらず、特許権は財産権として保護されるべきであるという側面と、そうは言っても特許権という財産権の濫用は規制されなければならないという側面とがある。米国の裁判所もこの問題に対処しようとしている」と回答した。

レイダー判事は、ユーモアを交えつつ、米国特許法の改正の動きについての最新情報を出席者に紹介し、専門性の高い懇談会が、終始和やかな雰囲気の中で行われた。

【産業第二本部開発担当】
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