日本経団連は20日、提言「イノベーション創出を担う理工系博士の育成と活用を目指して―悪循環を好循環に変える9つの方策―」を公表した。
わが国が、今後も成長力を維持・強化し、豊かな社会を構築していくためには、科学技術創造立国の実現を通じて、イノベーション創出の総合力を高めなければならない。
理工系博士人材については、必ずしも優秀な人材が博士課程に進学しないことが、博士人材の能力に付加価値の不明確さやばらつきを生じさせる原因となっており、結果として、企業が博士人材の採用に消極的になるという悪循環に陥っている。この状況を好循環へと変えていくには、意欲あふれる国内外の学生を博士課程に集め、社会のニーズを踏まえた研究・教育を通じて育て上げ、社会に輩出する必要がある。さらに、これまでのような博士人材の量的拡大ではなく、博士課程の教育機能を強化し、質的充実へと転換を図らなければならない。
このような認識に立ち、今回の提言では、大学院博士課程の入口から出口までの問題点を整理し、高度な理工系人材を育成・活用するため、大学、政府、産業界のそれぞれが取り組むべき9つの方策を提案している。提言の要旨は次のとおり。
提言の要旨
大学は、博士課程の研究・教育を通じてどういう人材を育成するのか理念・方針を確立し、博士課程前期までに学生に伝える。また、研究・教育の内容の新陳代謝を高め、国内外の学生にとって魅力的なものを用意する。
政府は、優秀な学生が経済的理由によって博士課程進学を断念することがないよう、返済時の税制上の優遇や優秀な学生の学費免除等、奨学金制度の拡充を図る。また、学生が研究・学習に専念できるようフェローシップやリサーチ・アシスタントなどによる支援を強化する。
企業は、修士課程修了生の採用選考に当たり、研究・学習の妨げとならないよう、日本経団連の「新規学卒者の採用選考に関する企業の倫理憲章」に基づいて学習環境の確保に十分留意する。
大学は、アカデミアだけでなく、企業を含む多様なキャリアパスを前提とした研究・教育カリキュラム、コースを提供するとともに、教員の教育面の成果を積極的に評価する。
政府は、優れた教育プログラムやカリキュラムの開発・実施を行う大学への資金的支援を拡充するとともに、新しい教育モデルの他大学への横展開を図る。
企業は、長期インターンシップへの協力や博士に対するセミナーの開催等に取り組むとともに、大学のサバティカル制度(留学や研究等のための長期休暇制度)を活用して、企業と大学との間の人事交流を促進する。
大学は、国際競争力を持った博士を輩出するため、出口管理を徹底し、博士の質の確保を図るとともに博士課程修了者に対する就職支援等を充実させる。
政府は、競争的資金を活用してイノベーション志向の産学協同事業を行い、研究プロジェクトにポスドク(大学院卒業後、任期のある研究職等に就いている博士号取得者)等を積極的に参画させる。
企業は、博士人材の採用、育成、配置等の方針を明確にし、優れた博士人材を積極的に採用する。また、採用後の処遇は、成果主義を基本に魅力ある職種、企業としていく。