日本経団連タイムス No.2854 (2007年4月5日)

「原子力の現状と課題」

−今井・原子力産業協会会長が理事会で説明


日本経団連は3月20日、東京・大手町の経団連会館で理事会を開催し、日本原子力産業協会の今井敬会長から「原子力の現状と課題」について説明を聴いた。今井会長の説明要旨は次のとおり。

現在、わが国のエネルギー自給率はわずか4%にすぎない。昨今、中国等の台頭に伴い、エネルギー価格が高騰しており、将来的にはエネルギー需給の逼迫も予想される。今後、各国の利害や地域情勢の影響を受け、国際的な資源獲得競争がますます激しくなる中で、わが国としては、原子力をエネルギー供給の中心に据え、エネルギー安全保障を確保することが極めて重要となっている。また原子力は、石炭、天然ガス、風力、太陽光などと比べて、電力1KW当たりのCO2排出量が少なく、今後のエネルギー自給率向上と地球環境問題解決の切り札といえる。
世界的にも、燃料価格の高騰に伴い、原子力発電が見直されており、「原子力ルネッサンス」と呼ばれる状況になっている。世界全体で、2020年には100〜150基、1億5000万KW分の原発の新設が計画されている。わが国では現在、55基(約5000万KW)の原子炉があり、全発電量の約30%を占めるが、政府の「原子力基本計画」では今後、この割合を40%まで高める目標を打ち出している。この目標達成のため、2017年までに原発を13基(約1700万KW)新設することになっているが、実現は難しいだろう。そこで注目されるのが原発の稼働率である。日本の稼働率は71.9%と、米国の89.8%、韓国の92.5%と比べ、極めて低い水準にとどまる。稼働率を10%向上すれば、原子炉を5基新設するのと同等のエネルギーを確保できる。今後、いかに原発の稼働率を引き上げるかが重要となっている。

このように原子力は重要であるにもかかわらず、国民の盛り上がりは今一つである。その背景には国民の理解が不十分なことがある。特に、原発の立地地域の住民が不安を抱いている点が大きい。実際、原子炉からエネルギーを取り出す過程や、それを電力に換える発電の過程で事故が起きている。加えて、発電の情報開示にかかわる不祥事が起きている。
すべて物事には「大義と共感」が肝要であり、原子力の推進が必要という大義はあっても、関係者の共感を得られなければ前に進まない。住民の信頼を回復するため、電力業界、関連業界は、責任感、使命感をもって事故や不祥事を起こさないよう取り組む必要がある。当協会としても、原子力産業安全憲章をベースに業界、立地地域の住民との対話に努めている。

今後の課題としては第1に、2030年ごろから進む既存の原子炉の代替に対応する必要がある。第2に、核燃料サイクルの確立である。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出す再処理工場が本年11月に稼働するとともに、さらに取り出されたプルトニウムにウランを混ぜて製造するMOX燃料の加工工場が2012年に稼動する。第3に、高レベルの放射性廃棄物の最終処分場を早期に決定する必要がある。第4に、高速増殖炉に関しては、福井県敦賀にある原型炉「もんじゅ」が2008年に運転を再開する。ここでの成果を踏まえ、2025年に大型の実証炉、2050年には商業炉の建設が計画されている。ウランの有効利用を進め、高レベル廃棄物を減らす夢の技術としてぜひ確立したい。
日本経団連には、エネルギー安全保障と地球環境問題の観点から今後とも原子力の推進に支援、協力をお願いしたい。

【総務本部総務担当】
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