日本経団連タイムス No.2858 (2007年5月10日)

「世界最先端の電子行政の実現に向けた提言」を公表

−ビジョンの共有と官民パートナーシップによる電子行政推進を提案


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は、4月17日、「世界最先端の電子行政の実現に向けた提言」を公表した。「電子行政」の推進は、「IT新改革戦略」の重点分野であるが、現行の電子行政は、不便かつ非効率なため、ほとんど企業の効率化には貢献していない。そこで、情報通信委員会において検討を行い、電子行政の推進体制の再構築を中心として、産業界としての考え方を取りまとめた。同提言では、わが国の電子行政をめぐる問題点を分析した上で、各国の先進事例を踏まえて世界最先端の電子行政のビジョンを示し、実現に向けた具体的な推進体制のあり方を提案している。同提言の概要は次のとおり。

提言の概要

1.わが国の電子行政をめぐる問題点

政府・自治体等における行政の電子化は、行財政改革や高コスト構造の是正といった構造改革を促し、国家の競争基盤を強化させる大きな原動力となり得る。現在、政府では、「IT新改革戦略」「電子行政推進計画」等に基づき、電子行政の実現をめざした取り組みを進めている。しかし、これまでの取り組みは、オンライン申請利用率50%達成が自己目的化するなど、「構造改革による飛躍」「利用者・生活者重視」「国際貢献・国際競争力強化」というIT新改革戦略に掲げる3つの理念から乖離したものとなっている。
例えば、申請・届け出手続きのオンライン化は進んだものの、最も重要である公的部門全体の業務プロセスの見直しはほとんど行われていない。さらに、国民、企業等の視点での、イベントごとにワンストップ化した行政手続きも実現しておらず、非常に使い勝手が悪い。この結果、オンライン申請利用率は11%にとどまり、電子行政のための投資が、社会的コストの削減、国際競争力強化に結びついていない。
このような現状を招いた原因としては、第1に国家としての電子行政の将来ビジョンが共有されていないため、各府省庁・自治体が全体最適を考慮せず、バラバラの施策を推進していること、第2に、電子行政についての実効ある評価システムの欠如、実務担当者の意識不足等により、PDCAサイクルがうまく機能していないことが挙げられる。

2.世界最先端の電子行政ビジョン

提言では、韓国、カナダ、エストニア等の海外の先進事例も参考に、めざすべき世界最先端の電子行政ビジョンを示している。
例えば、韓国の電子行政は、明確な目標設定と、透明性の高い実施に特長がある。業務効率化のために推し進めている「行政情報共有化」施策では、2005年までに共同利用可能な24種類の行政情報の添付書類を廃止し、年間4000万件の書類削減効果と、2484億ウォンの社会経済的な費用削減を達成した。
また、民願処理オンライン公開システムを構築し、行政手続きの進捗状況をほぼリアルタイムでインターネット上に公開することで、公正な業務処理過程の制度化と、不透明な裁量行政の排除をめざしている。
わが国が世界最先端の電子行政をめざすのであれば、電子行政の推進においても、(1)徹底的な業務改革による、世界一の効率性(2)利用者の視点に立った世界一の利便性(3)利用者が自己に関する行政情報を自由に利活用できる世界一の透明性――といった高い目標を掲げ、明確なビジョンを示すべきである。
企業が実施している従業員等に関する行政手続きについては、省庁の縦割りを廃し、企業がデータベースで管理している情報を、所定のデータフォーマットに沿った形で一括送付することで、手続きを完了できる行政システムを構築すべきである。このような電子行政が実現すれば、年間1兆円を超えるとも試算されている、企業の行政事務コストの大幅削減が期待できる。

3.電子行政推進体制の再構築

このような電子行政を実現させるため、推進体制として、07年度中に、IT戦略本部の下に、電子行政のグランドデザインを立案・推進するための官民参加の組織として「電子行政推進会議」、およびその事務局である「電子行政推進センター」を設置することを提案している。また、PDCAサイクルの再構築として、IT戦略本部の評価専門調査会の権限および組織強化が不可欠である。
さらに、これらを実現させるための施策として、電子行政モデル地域を創設し、そこでグランドデザインの実験を行うことを提案している。また、これら電子行政の推進に当たっては民間の力の活用が有効であるため、官民パートナーシップの確立も提案している。

【産業第二本部情報担当】
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