日本経団連タイムス No.2858 (2007年5月10日)

税制委員会企画部会開く

−格差問題踏まえた所得税制 あり方めぐり意見を交換


日本経団連は4月13日、東京・大手町の経団連会館で税制委員会企画部会(田中稔三部会長)を開催し、一橋大学国際・公共政策大学院の田近栄治教授から、少子・高齢化と格差問題を踏まえた所得税制のあり方などについて説明を受けるとともに意見交換を行った。今年秋以降に予定される税制抜本改革の本格的な議論に向けて、日本経団連では、税制委員会企画部会が中心となって検討を進めている。田近教授は、現在、政府税制調査会の調査分析部会長を務めている。田近教授からの説明概要は次のとおり。

1.少子・高齢化が及ぼす日本の所得分配への影響

現在の社会保険制度は、現役世代から老齢世代への所得移転という賦課方式になっているので、高齢化を背景として、若年世代の社会保障負担が増大している。例えば高齢者が老人ホームなどの施設に入ると、年金給付等を含めて年収500万円に近い給付を受ける場合も多いが、高齢者を介護する側の若者の月収は20万円程度で、さらに社会保険料を納めている。このように、現状は、若年労働者を含む現役世代から高齢者世代への所得再分配となっている。その一方、グローバル化を背景に若年層の所得格差が拡大している。

2.日本の所得分配政策の実態

日本における所得分配の実態を調査すると、2つのことがわかる。1つは、低所得者層は税負担が少ないが、社会保障は全所得階級で負担していることから、個人負担は社会保障が中心となっていること。もう1つは、給与世帯と年金世帯の比較では、すべての所得階級で、高齢者世帯が現役世帯よりも負担が少ない構造となっていることである。

3.所得分配における世代間格差を是正する方法とは何か

賦課方式による負担の転嫁を続けるのではなく、給付を受ける高齢者にも負担を求めないと制度は存続できない。税制調査会などから派遣されて、ドイツの様子を見てきたが、高齢者への負担を求める改革へと向かっている。日本の所得税制においても、公的年金等控除をさらに見直し、受給時課税を徹底させる方向の改革が必要である。その上で、個々の高齢者の負担能力に見合った調整を行うべきである。

4.格差問題を是正する所得税制とは何か

低所得者層に対し所得控除を拡大して、税負担を調整することには限界があるので、課税ベースを広げつつ、所得控除から還付付き税額控除に移行することで、税収中立の下でも、税率構造を変えることなく、低所得者への所得分配を行うことができ、同時に税率を引き下げることができる。低所得者に対しては、賦課方式となっている社会保険料の若年労働者負担を下げることが、ポイントである。欧米の勤労所得税額控除制度は、福祉に依存して、労働しない人々を労働市場に参加させることを目的としているが、日本では、一部そうした問題があるとしても、それを税制で改善するといった状況ではない。従って、還付付き税額控除制度は、今後さらに増加する社会保険料負担との関連を考えることが、重要である。また、課税ベースを広げることを通じて、税率の引き下げも視野に入れておくべきである。オランダでは、2001年の税制改革で所得控除を全廃し、すべて税額控除に変更し、同時に税率も引き下げた。日本では、現在、子育て世帯や低所得者に対して、さまざまな手当や補助金を支給しているが、税による改革を行う場合には、そうした歳出面の支援がどうなっているのかを明らかにする必要性もある。そうした検討を経ずに、税額控除も行うというのは、望ましくなく、厳しい財政の中で、現実的でもない。

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税制委員会では、引き続き、有識者を招いて税制上の課題を検討し、税制抜本改革に関する考え方を取りまとめていく予定である。

【経済第二本部税制・会計担当】
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