日本経団連タイムス No.2859 (2007年5月17日)

ILO多国籍企業専門家招きCSR講演会を開催

−国際労働委員会・政策部会合同会合


日本経団連の国際労働委員会(立石信雄委員長)・同政策部会は8日、東京・大手町の経団連会館でILO(国際労働機関)のドミニク・ミシェル多国籍企業プログラム長を招き、「社会における企業の役割」をテーマに講演会を開催した。

ミシェル氏は、まず、経済成長および雇用創出における企業の役割を指摘しながら、企業の社会的責任(CSR)が世界的に注目されている背景を説明し、CSRのさまざまな分野の中でも、特に環境、労働、人権の重要性を強調した。続いて、ILOが1977年に採択した「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」はILOのCSRに関する主要なガイドラインであり、「雇用、訓練、労働条件・生活条件、労使関係などの分野における政労使の役割と責任について言及しており、すべての国に平等に適用される、社会的責任に関する普遍的な参照基準である」と説明した。さらに、CSRは「法令遵守を超えた、あくまで企業の自発的な取り組みである」と強調し、また「一時的なものではなく、企業経営に組み込まれた永続的、かつ体系的なもの」であるとの見解を述べた。

また、ミシェル氏は、「日本ではCSRという言葉が生まれる以前からCSRの理念と取り組みが存在していた」と、日本企業のCSR活動を評価するとともに、ILOは、日本企業を含む各国企業の良きCSRの実践を世界中で共有するため、「効果的事例」を収集し、データベース化する新たな試みを開始したと説明し、併せて日本企業に対する協力を呼び掛けた。さらに、三者宣言採択30周年に当たる今年、ILOは11月15日から16日にジュネーブで、三者宣言が企業レベルでいかに効果的に実践されているかについて、経験を共有し、情報交換を行う特別フォーラムを開催する予定であると紹介した。

講演の後に活発な質疑応答が行われた。「CSRを推進する上で、三者宣言にあるように、なぜILOは地元企業よりも多国籍企業を主要なターゲットとしているのか」との参加者の質問に対し、ミシェル氏は、「多国籍企業は地元企業と取引を行っており、自らより責任のある事業活動を行い、さらに取引先に対してもそのような行動を促すことを通じて、国全体のレベルアップを図るという効果を期待しているため、多国籍企業を第1のターゲットとしている」と答えた。

また、日本企業のCSRの取り組みの現状に関する印象を聞かれたミシェル氏は、「日本企業は、第1に環境への取り組みに重点を置いているように感じられる」と語り、ヨーロッパ企業は「環境」よりも「労働」を重視していることを紹介しながら、日本企業はもっと労働CSRに目を向けるべきではないかとの感想を述べた。これに対し立石委員長は、「公害問題」がひとつの契機となり、技術革新を含めて、日本企業が環境対策を積極的に行ってきた歴史的経緯を述べるとともに、「労働」に関しては、日本企業が力を入れていないのではなく、むしろ日本的経営の根幹である良好な労使関係を維持・向上させる努力が、労使紛争の未然防止等に大いに役立ってきたことを披露した。

【労政第二本部国際労働担当】
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