日本経団連タイムス No.2860 (2007年5月24日)

IGF東京会議開催

−インターネットの将来をめぐり専門家と意見交換


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は9日、東京・大手町の経団連会館で、国際連合、世界情報基盤委員会(GIIC)との共催、総務省の後援により、「IGF東京会議−インターネットの将来−」を開催した。同会議では、マーカス・クマー国連IGF事務局長、ポール・トゥミーICANN会長兼CEO、清水英雄総務省総務審議官をはじめ、インターネット関係者の参加を得て、インターネットをめぐる課題と将来について講演およびパネルディスカッションを行った。

今日、企業にとってインターネットは、ビジネスの重要インフラとなっている。その自由かつ安全な利活用とインターネットの今後のあり方は、日本の産業界にとっても重要な課題となりつつある。

国連では、インターネットの抱える諸問題について世界中のステークホルダーが議論を行うため、2003年と05年の2度にわたり世界情報社会サミット(WSIS)を開催した。その成果として、継続的な議論を行う場として、「インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)」を、06年から5年間にわたり、毎年開催することが決定された。昨年11月には、第1回IGFがアテネで開催され、インターネットの開放性、セキュリティー、多様性、アクセスの4つの議題をめぐり議論が行われた。

日本経団連が主催したIGF東京会議は、今秋、リオデジャネイロで開催される第2回IGFに向けて、先取りした議論を行うとともに、わが国経済界のリーダーにインターネット・ガバナンスの重要性を理解してもらうことを目的として開催された。

冒頭、張富士夫日本経団連副会長から、「インターネットの発展による、サイバー犯罪、デジタル・デバイド等の負の課題に対しては、国際協調による取り組みが必要であり、世界最先端のブロードバンド環境を有し、インターネットの恩恵を享受している日本は、その安定運用と発展に貢献すべき立場にある」とのあいさつがあった。

IGFの意義について、クマー事務局長は、IGFでは、すべてのステークホルダーがインターネット・ガバナンスのあり方について、現実に基づいて議論することができると指摘。また、IGF自体は意思決定をする場ではないが、だからこそ、オープンな対話が可能であり、他の国際機関・会議での意思決定に影響を及ぼし、交渉の土台となると述べた。

クマー事務局長は、昨年の第1回IGFの参加者構成は、欧州からの参加者が半分近くを占め、しかも政府や市民社会が大半であり、企業等の民間部門からの参加が少なかったことを指摘し、日本からの参加、特に産業界からのより積極的な情報発信・継続的参加が望ましいと述べた。また、清水総務審議官も、第1回IGFにおける日本経団連の積極的な参加を改めて高く評価するとともに、「日本全体がインターネットの世界で影響力を持つためには、政府のみならず、産業界という大きな主体が今後も積極的にIGFに参加し、意見を表明してほしい」と強調した。

インターネットのドメイン名とIPアドレスの世界的な管理は、非営利団体であるICANNが行っているが、トゥミーICANN会長は、「インターネットの将来について、今後は、携帯電話からのインターネットアクセスやブロードバンドのさらなる高速化が進み、フィッシングやルートサーバーへの攻撃対策等が重要となってくる」との問題認識を示した。

パネルディスカッション

続くパネルディスカッションでは、インターネットのセキュリティー問題について、キム・アムブラー国際商業会議所情報通信副委員長(ボーイング社技術政策部長)が、自由な情報流通とセキュリティーは両立し得るものであり、企業活動の必要条件であると指摘。クマー事務局長も、「産業界は、ユーザーとしても、技術提供者としても、セキュリティー問題で重要な役割を果たす」と述べた。日本経団連情報通信委員会の加藤幹之国際問題部会長からは、日本が官民連携により、携帯電話への迷惑メールを撲滅したことは世界に誇れるベストプラクティスであり、これをパソコンへの迷惑メール撲滅にも応用することを提案すべきとの見解が示された。

インターネットの多様性の問題については、トゥミーICANN会長から、IGFに限らず、インターネットの世界で決まることはビジネスに影響を及ぼすものであり、国際化ドメイン名、多言語化の推進についても日本の産業界から見解を発信してほしいという意見が出された。

また、現在、世界の50億人がインターネットにアクセスできていない現状について、坂巻政明総務省国際政策課長は、日本はODAや民間の直接投資により、途上国のアクセス問題に貢献できると指摘。アムブラー副委員長も、インドでは「インターネット・キオスク(インターネットにつながった街頭のパソコンスタンド)」が設置され、農民がインターネットを通じて農作物を販売することで、貧困解消の一助となっているとの事例を紹介し、途上国のアクセス改善は貧困解消に貢献するとともに、企業にとってビジネスチャンスでもあると述べた。

最後に、モデレーターを務めた、今井義典NHK解説主幹が、日本および日本の産業界のIGFへの積極的参加の重要性を確認してパネルディスカッションを締めくくった。

【産業第二本部情報通信担当】
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