日本経団連タイムス No.2860 (2007年5月24日)

IMF加藤副専務理事と懇談

−「IMFから見た世界経済と日本経済」について意見交換


日本経団連は8日、東京・大手町の経団連会館で経済政策委員会および金融制度委員会委員を対象に国際通貨基金(IMF)の加藤隆俊副専務理事との懇談会を開催し、加藤副専務理事から「IMFから見た世界経済や日本経済の見通し」について説明を受けるとともに、意見交換を行った。
現在の世界経済はダイナミックな構造変化が起こりつつある。そこで、加藤副専務理事の帰国を機に、世界経済の見通しなどにつき話を聴いた。加藤副専務理事からの説明の概要は次のとおり。

1.世界経済見通し

IMFによる世界経済全体の成長率見通しは、今年、来年ともに4.9%であり、今年で5年連続の5%程度の高い成長となる見通しである。世界経済の柱はアメリカ経済・ユーロ圏経済・日本経済であるが、最近は中国、インドの寄与が大きくなってきている。国際収支に関してアメリカが経常収支の赤字を一手に引き受けているという感がある。
世界経済のリスク要因は、(1)アメリカ経済の失速 (2)好景気による需要増に伴う原油価格の上昇、または地政学的な供給リスク (3)経済のグローバル化――の3つである。今年の2月には突然上海の株価が下落し、それをきっかけとして世界の株式・債券市場が影響を受けたように、ある1カ所に起きたことが世界の金融資本市場全体に波及するという流れになってきている。一方、世界景気の上ぶれ要因としては、中国・インド経済とユーロ圏経済が挙げられ、それぞれ順調な経済成長が続いている。

2.日本経済見通し

IMFによる日本経済成長見通しは、今年は2.3%、来年は1.9%としており、引き続きこれまでの2%前後の成長を維持できるという見通しである。
景気のプラスの要因として、(1)アメリカ、ヨーロッパ、中国等への輸出が良好である (2)日本企業の設備投資意欲もなお根強い (3)近ごろのCPI(消費者物価指数)がマイナスで、金融政策は基本的にこれまでの緩和基調を当面維持すると思われる (4)日銀短観にも現れているように人手不足感が高まっており、雇用の増加や賃金の持ち直しにつながると思われる――ことなどが挙げられる。
一方、不安要因としては、(1)GDP比183%(2005年)の債務残高による将来不安 (2)予想以上の米国経済の景気減速の影響 (3)円高の進行――がある。

3.実質実効為替レート

過去26年の平均と比較して現在の円の実質実効為替レートは10%以上の円安である。貿易収支や経常収支の黒字から、円相場は円高方向へのプレッシャーを受けるが、経常収支を上回る対外投資による資産流出があるために、逆に円安となっている。海外の株式市場や海外の金利水準が今後も継続する場合には、日本からの対外証券投資はこれまでと同様のペースが続くと見ている。

4.世界の労働力供給と労働分配率

人口増等を反映して労働力はなだらかに上昇している。また、中国、ASEAN、中東欧などの国が世界の貿易市場に参加するのに伴って、世界の輸出加重労働力が1980年以降約4倍に上昇している。国際競争の激化に伴い、日本を含めた先進国では労働分配率対GDP比が80年と05年を比較すると軒並み7%程度下がってきている。

【経済第二本部経済法制担当】
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