日本経団連タイムス No.2864 (2007年6月21日)

経済政策委員会を開催

−「成長力強化に向けた経済政策のあり方」東京大学大学院経済学研究科・伊藤教授から聴取


日本経団連の経済政策委員会(奥田務共同委員長、畔柳信雄共同委員長)は14日、東京・大手町の経団連会館で、伊藤隆敏・東京大学大学院経済学研究科教授から、「成長力強化に向けた経済政策のあり方」について説明を聴取。併せて、提言案「豊かな生活の実現に向けた経済政策のあり方」提言内容別掲)について審議を行い、了承した。
伊藤教授の説明概要は次のとおり。

伊藤教授はまず、安倍政権の経済政策の基本スタンスについて説明。「安倍政権では、日本経済が危機的状況から脱して着実な回復軌道に乗ったことを背景に、潜在成長率を引き上げるために供給サイドを強化する経済政策を基本としている。経済成長の原動力となる資本、労働、生産性の3要素について、(1)潤沢な個人資産の有効活用、リターンの高いセクターへの資本利用(2)少子・高齢化による労働人口の減少が懸念される中で、女性や高齢者などの就業率の向上(3)IT技術の普及等による生産性の引き上げ――が重要となる」と述べた。このようなサプライサイドの政策を進める一方、小泉政権で進められてきた構造改革についても、「その重要性は安倍政権においても何ら変わることはなく、改革を継続していく」と言及。さらに、格差拡大への懸念に対しては、「成長戦略を基本としつつも、やる気のある地方を応援するとともに、だれもが何度でも再チャレンジできる機会を提供していく」と述べた。

次に、政府の「骨太方針2007」の柱となる「成長力加速プログラム」について言及。まず、成長力底上げ戦略について、「ジョブ・カード制度を導入し、就業能力の形成に役立てるべきである」「就労支援は『福祉から個人へ』との考え方のもと、可能な限り就労による自立・生活の向上を図る必要がある」「最低賃金の引き上げは生産性向上とセットで考えるべきである」と説明した。次に、サービス革新戦略について、「1990年代後半、米国でのIT普及を背景とした生産性の向上を参考に、日本でも、IT基盤の充実・利活用の促進により、経済全体の効率化を図る必要がある」と言及。さらに、成長可能性拡大戦略について、「医薬品等の成長分野での国際競争力向上を図るべきである」「大学・大学院改革を通じて産学官の連携を深め、研究成果の具体化、社会への還元を進める必要がある」「資本市場改革とともに、ベンチャー企業へのリスクマネーの供給を促進していくことが求められる」と述べた。

また、グローバル化改革として、WTO(世界貿易機関)・EPA(経済連携協定)、金融資本市場、航空自由化の3点を指摘した。まず、WTOドーハ・ラウンドについては、「日本は国内農業の改革などを通じ、交渉力を高める必要がある」と言及。また、EPAについては、「近年、世界ではEPA締結が加速している。日本としても、ASEANや豪州をはじめ、EPA交渉への取り組み強化が求められる。このままでは、日本は世界の動きからますます取り残される」「韓国は米国とのFTA(自由貿易協定)交渉を妥結し、EUとの交渉も順調に進めている。日本としても、米国、EUとのEPAについて、研究開始が求められる」と説明した。金融資本市場については、「工業品先物、穀物先物取引の改革を進め、取引所の競争力を強化すべきである」と言及。航空自由化については、「オープンスカイ型の航空協定を推進するとともに、羽田空港の深夜早期時間帯に定期的国際チャーター便を就航させることにより、国内航空会社のビジネスチャンスが拡大する」と説明した。さらに、地球温暖化対策として、「制度としてのサマータイムでなくとも、勤務・営業時間の繰り上げは有効ではないか」と述べた。

【経済第一本部経済政策担当】
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