日本経団連タイムス No.2865 (2007年6月28日)

第96回ILO総会が閉幕

−漁業分野の国際労働基準など採択


スイス・ジュネーブで開催されていたILO(国際労働機関)の第96回総会が、15日閉幕した。
今回の総会では、漁業の国際労働基準について新たな条約作成をめざす討議が行われた。既存の古い条約・勧告を統合・改正し、小規模漁業も含めて、より多くの漁船員の労働条件改善につながる内容の条約案が出来上がり、ほぼ全会一致で採択された。
このほか、グローバル化の進む世界においてILOが果たすべき役割についての討議や、公正な成長と雇用の拡大に寄与し得る持続的企業の促進に関する討議が行われた。
各議題の主な討議結果は次のとおり。

財政委員会

2008〜09年度のILOの予算として、06〜07年度予算をベースに、物価上昇などのコスト増約8%を織り込んだ6億4173万ドルの予算が、経費削減を求める米国や英国などの一部反対があったものの、賛成多数で可決された。日本の分担比率は、国連の分担比率が減少したことに連動して、19.485%から16.632%に減少、負担金額も約970万ドル減の1億600万ドル(2年ベース)となった。

条約・勧告適用委員会

批准した条約の適用が不十分なもののうち、特に問題と認識される26の案件が個別審査の対象となった。

このうちの1つとして、日本における男女間賃金格差は不合理で、日本が批准している同一報酬に関するILO条約(100号)違反であるとして、個別審査が行われた。その結果、改正男女雇用機会均等法によって、賃金決定に影響する雇用管理等における性差別の禁止をするなどの、日本政府の賃金格差縮小に向けた努力が評価された一方、男女の同一価値労働に対する同一賃金の原則を法令等のかたちで取り入れることなどが要請された。

また、昨年に引き続き、ミャンマーの軍事政権による強制労働に関する特別セッションが開かれた。今年2月にILOとミャンマー政府との間で、強制労働被害者が報復を恐れることなく救済を求められるメカニズムについて合意がなされたものの、有効に機能していないことから、委員会はミャンマー政府に改善を求めた。また委員会は、新任のヤンゴン駐在ILO連絡員に必要な協力や便宜の提供を行うこと、連絡員を補佐する職員の承認を早期に行うことをミャンマー政府に要請した。

第4議題「漁業分野における包括的国際労働基準」(基準設定)

40年ほど前に採択され、批准数も少ない漁業分野に関する7つの条約および勧告を統合・改正し、より多くの国に批准されるよう各国の漁業の実態を踏まえた新たな条約・勧告とすることをめざして討議を行った。本議題は、04年および05年の総会で討議されたが、出来上がった条約案は小規模漁業への適用が難しい内容となったことから、使用者側と多くの政府が投票を棄権し、条約案が廃案となった経緯がある。

条約案策定において日本が最も重要であると認識していたことは、船員居住設備を規定する基準となる船の大きさと具体的な居住設備の内容である。討議において、前者については、船の長さと総トン数の読み替え、後者については寝台の大きさなど具体的な数値について日本の主張が認められた。また、技術、医療、教育など社会的基盤が整備された段階で、条約規定実施に移るとする「漸進的実施」条項が盛り込まれ、これが特に途上国に歓迎された。

討議の結果、各国の漁業実態を反映し、かつ日本にとっても批准可能な条約案がまとまり、同条約案は総会全体会議の投票で、ほぼ全会一致で採択された。

第5議題「21世紀初頭におけるILOの中核的使命遂行とディーセント・ワーク促進のための機能強化」(一般討議)

ILOは、働きがいのある人間らしい仕事を意味する「ディーセント・ワーク」の促進を基本政策として掲げている。本議題で、グローバル化が進む今日のILOの活動を再定義するとともに、各国のディーセント・ワークへの取り組みを促進するためにILOはどのような役割を果たすべきかなどについて討議を行った。

討議の結果、(1)各国のディーセント・ワーク推進状況を定期的に再検討する場を設けること(2)ILO事務局や各国政労使がILOの各戦略目標を相互補完的に一貫したかたちで実行していくこと(3)ディーセント・ワーク実現に向け、UNDP(国連開発計画)など他の国際機関との連携を深めること――の重要性が確認された。各項目とも具体的にどのように行うかについては、理事会での議論に委ねることになった。また、討議結果を宣言等のかたちで「公式文書」にまとめるかどうかについても、理事会での検討を待つことになった。

第6議題「持続可能な企業の促進」(一般討議)

本議題では、経済発展や雇用創出に貢献する「持続可能な企業」の促進に向けて、(1)必要なビジネス環境(2)企業行動のあるべき姿(3)各国政府および労使が果たすべき役割(4)ILOに期待する役割――などについて、政労使が活発に討議を行った。最終的に報告書がまとめられ、総会全体会議で採択された。

報告書には、持続可能な企業に必要なビジネス環境として、(1)平和と政治的安定(2)良好な社会統治(3)政労使の社会対話促進(4)人権や国際労働基準の尊重(5)起業文化の醸成(6)財産権の尊重(7)公正な競争の確保(8)エネルギーや物流などの物理的なインフラ環境整備(9)人材育成の強化――などが盛り込まれた。また、今後ILOに期待する役割として、教育訓練をはじめ、各国の実情を踏まえながら、ディーセント・ワークや持続可能な企業の促進に向け、ILOの専門知識を活かした支援を行っていくことなどが挙げられた。また、ビジネス環境の整備等においては、ILOが他の国際機関と十分に連携することの重要性が強調された。

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ILO総会期間中の8日、アジア太平洋経営者団体連盟(CAPE)の首脳陣が国際自由労連アジア太平洋地域組織(ICFTU−APRO)と懇談を行った。アジア地域でも移民労働者の流出入が増加する中、移民労働者の権利保護の問題などについて意見を交換した。

【労政第二本部国際労働担当】
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