日本経団連タイムス No.2869 (2007年7月26日)

新刊紹介

「戦略的な知的財産管理に向けて―技術経営力を高めるために―【知財戦略事例集】」

−経済産業省・特許庁編著

日本経団連知的財産委員会委員長  野間口 有

今日の世界経済は、市場のボーダーレス化、技術や規制・規約のグローバル化が進み、企業間競争が一層激化するとともに複雑さを増してきている。このような状況の中、企業が競争力を高めるためには、「知的財産戦略」の積極的な推進が不可欠となっている。

企業の知財部門では、自社が保有する知財の内容や活用状況を指標化し、定量的に把握するとともに、パテントマップを使って他社の知財力と比較するなど、事業力の強化や新たな研究開発課題の発掘に向けて、絶えず知財戦略のブラッシュアップに努めている。しかし、経営状況に適応する効果的な知財戦略の構築や社内の組織体制の整備をどのように進めればよいのか、その対応策について、具体的な事例に基づいて示唆してくれる良書は少ない。

そこで、企業経営において知財を積極的に活用している150社に対してヒアリングを行い、そこから得られた565の貴重な事例について、経済産業省・特許庁の編著により取りまとめられたのが「知財戦略事例集」である。

本書は、(1)「持続的成長に資する発明の戦略的創造」(2)「創造された発明の戦略的保護」(3)「特許の戦略的活用」(4)「特許群(発明群)の戦略的管理」(5)「戦略的発明管理に資する体制・環境」――などのテーマで構成されており、企業の取り組み事例が体系的に分類されている。

例えば、「持続的成長に資する発明の戦略的創造」では、知財部が研究開発部門と連携し、先行他社の技術動向や保有特許などをしっかりと検討した上で開発を進めたところ、当該事業において、独創的な製品を提供できるようになった成功事例が紹介されている。さらにこの事例では、研究者は先行技術を基礎として改良しようとする傾向にあるが、知財部員は先行技術と差別化を図ろうとする傾向があることがわかり、異なる視点を持つ両者が連携すれば、後発の事業参入に関する技術開発において、非常に効果的であることがわかったとしている。

一方で、開発方針の決定に知財部が関与しなかったことにより、他社の特許権に関する検討がおろそかになり、開発が完了に近づいた段階になって、他社が既に特許権を取得している技術であったことが判明した失敗事例なども紹介されている。

このように本書では、中小・中堅企業を含め、国内外の企業の成功事例、失敗事例が多数紹介されている。企業の競争力の強化のためには、知財戦略を事業戦略、研究開発戦略と高度に融合させた「三位一体経営」に取り組む必要があるが、その実現のためには、関係部門間の連携、そして、何よりも経営トップの理解が不可欠である。知財担当者だけではなく、経営トップにもぜひ本書をご一読いただき、自社の知財力、事業力の向上のために活用していただきたいと思う。

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〈経済産業調査会(電話03−3535−4882)刊、A5判、450ページ。価格2940円〉

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