日本経団連タイムス No.2872 (2007年8月23日)

日本経団連北東アジア国際物流調査団を派遣

−韓国、中国の現状など視察


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は、7日から12日にかけて、丸山和博運輸・流通委員会物流部会長を団長とする総勢17名の調査団を韓国・中国に派遣した。

調査団は、まず、北東アジアにおける国際物流のハブとしての地位を確立し、なおも、国家戦略としてインフラを拡充している韓国の釜山、ソウルを訪問した。現地では、最新の物流インフラ整備状況と、円滑な貿易・物流を支えている韓国政府の組織と政策的な総合調整に関する調査を実施した。

引き続き、今後、日本海物流ネットワークで重要な役割を果たすとみられる中国吉林省の延吉を訪問し、中国東北地方と日本海とをつなぐ物流網整備の現状や地方政府の施策についても調査を行った。

■「海洋首都」をめざす釜山

最初の訪問地釜山では、釜山広域市の金亨伴港湾農水産局長と会見した。局長は、北東アジア・ハブ構想の最前線に位置する釜山を首都ソウルに対抗して「海洋首都」と位置付け、(1)新港建設と後背地確保による物流インフラの拡充(2)取扱貨物量の45%を占める積み替え貨物に対するサービス強化と物流コスト最小化、その一環としての船主へのインセンティブ(3)自由貿易地区の育成――といった課題に戦略的に取り組んでいることを説明した。

■政府と自治体の総合調整を図るBPA

釜山港では、釜山港湾公社(BPA)を訪問し、ポートオーソリティが果たす機能について聴いた。国と地方自治体の港湾整備・運営に対する考え方の違いを解消することを目的として2004年にポートオーソリティが設立された。実際の整備・運営は釜山港湾公社が実施し、方針の決定は自治体もメンバーとして参加する「港湾委員会」において行われるとのことであり、わが国の港湾行政のあり方を考える際にも参考になろう。

現在、釜山新港の整備が進められており、国と民間で10兆ウォンを投資し、11年までに30バースを整備する予定である。これが完成すれば、旧港の港湾機能を新港に移し、旧港(北港)をウォーターフロントとして再開発する予定であり、そのベンチマークとして横浜のみなとみらいも参考にしているとのことであった。また、韓国MCCロジスティクスの物流施設を見学し、同社太田泰司社長から、世界各地の原材料を釜山港保税区域で組立加工し日本の各港に運ぶという、文字通りハブ機能を利用する経営戦略、ビジネスモデルについて話を聴いた。

■世界のベスト5をめざす仁川国際空港

仁川国際空港公社では、今後の戦略的な整備計画について説明を受けるとともに、大韓航空が誇る最先端の物流施設を視察した。同空港では、01年の開港以来、航空機運航、旅客運送、貨物処理で年平均10%以上の伸びを示しており、貨物量では、既に成田空港を追い越し、世界第2位となっている。現在、3750メートル級の滑走路2本で運用されているが、08年には、4000メートル級滑走路が完成し、航空機運航回数が年24万回から41万回、貨物取扱量も年270万トンから450万トンになる見込みであり、将来的には、すべての空港機能に関し世界のベスト5入りをめざすとのことであった。

■保税搬入原則を廃止し貿易立国をめざす韓国

韓国ではさらに関税庁、建設交通部、海洋水産部を訪問し、各部の政策的課題とその取り組み状況について幹部との懇談を行った。

まず、関税庁では、貿易政策の概要、輸出入通関制度の変遷、輸出入通関システムに関する説明を受けた。セキュリティーと物流効率化は両方ともに重要であるが、韓国経済の発展のため、物流効率化を優先し、保税搬入原則を1994年に廃止した。申告者について性善説に立つとともに、リスク判定の仕組みを一層高度化したとのことであり、日韓間での官の意識の違いを痛感した。

次に訪れた建設交通部では、物流政策の現状と戦略について懇談した。

同部では、(1)空港、港湾など国際物流インフラの拡充(2)最先端の物流支援のシステム構築(3)物流産業の競争力強化(4)物流企業の国際展開支援――の4つを政策課題として掲げている。これまで韓国においても物流政策に関して省庁縦割りの弊害が生じていた。そこで、省庁別に分散していた物流政策機能を統合・調整するため、来年2月から国務総理大臣が委員長を務め、物流関係大臣や専門家で構成される「国家物流政策委員会」を設置する。これは、まさに日本経団連の運輸・流通委員会が日本での設置を提言しているものである。また、インフラ拡充において、ソフト面に重点を置くとの話も聴いた。

海洋水産部の釜山港プロジェクトの成功についての考え方も、「韓国は3面を海で囲まれており、海洋に乗り出さないと未来がない」ということを大統領はじめ全大臣が共通認識として持っているからであるというものであった。

■国家戦略の浸透が強み

韓国は、物流政策においては、既に日本を競争相手とは見ていない。一方、中国における物流増加に伴う上海港をはじめとする港湾の成長には警戒心を持っており、「この危機をいかに機会に変えるかが大事である」と釜山広域市の金港湾農水産局長が話していたのが印象的であった。

北東アジア・ハブ構想が早くから策定され(94年)、それを国家戦略として政府の各部(省庁)や自治体、関係する公社の担当レベルにまで浸透させている点が、韓国が物流ハブとしての地位を築いた大きな要因といえる。

【産業第一本部国土担当】
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