日本経団連タイムス No.2872 (2007年8月23日)

貿易投資委員会を開催

−WTOドーハ・ラウンド交渉動向を聴取


WTOドーハ・ラウンドの年内妥結が予断を許さない状況にある中、日本経団連では7月31日、東京・大手町の経団連会館で貿易投資委員会(佐々木幹夫委員長、秋草直之共同委員長)を開き、同ラウンドの現状と見通しについて関係各省から説明を聴いた。

横田淳特命全権大使は、交渉全般について、「非公式な枠組みであるG4(米、EU、インド、ブラジル)閣僚会合が6月に決裂し、交渉は多国間の公式なプロセスへと回帰した。7月には農業およびNAMA(非農産品市場アクセス)交渉グループ議長から、議論の最終的な着地点を探るためのたたき台として、モダリティ(関税削減等に関する数字を含む自由化方式)に関する議長テキストがそれぞれ提示された。それらを基に、年内妥結をめざし、9月から集中的な交渉が行われることになる」と説明した。

今後の見通しについては、「米国議会が付与する大統領貿易促進権限(TPA)が7月1日に失効したため、米国議会は、行政府による交渉結果の部分的な修正・拒否が可能となっている。米国政府は、秋以降、ラウンドの成果に基づきTPAの更新を議会に申請したい考えであるが、交渉相手国としては、米国政府との交渉結果がそのまま批准されるか否か不確実な状況下では、合意に慎重にならざるを得ない」と指摘した。

さらに、交渉の焦点である米国の農業国内支持(補助金)が審議中の新農業法案に基づき現状の水準をさらに上回る可能性があることなどから、年内妥結は厳しいとの見方を示すとともに、年明け以降は大統領選挙が本格化するなど交渉への注力が困難となるため、新政権発足後しばらくするまで交渉は冬眠入りする恐れがあると指摘した。

今後の政府の方針については、交渉の先送りがWTO体制に及ぼす悪影響にかんがみ、あくまで年内妥結を目標に「議長テキストに基づく議論に積極的に参加しつつ、全分野でバランスのとれた成果をめざし、加盟国間の橋渡しに努力していく」と述べた。

小川恒弘経済産業省通商機構部長は、NAMA交渉について、「議長テキストがフォーミュラ(関税削減方式)に当てはめる途上国の係数(上限となる関税率に相当)を19〜23とした点に途上国強硬派の批判が集中している。15を主張してきた、わが国はじめ先進国にとっては不十分であるが、関税削減に消極的なブラジル、アルゼンチン、南アフリカ等にとっては、逆に想定外の厳しい内容であった。他方、途上国中間派(メキシコ、香港、タイ、シンガポール等)からは、議長テキストが提示される直前に同テキストと同水準の係数が提案されるなど柔軟な姿勢がみられる。今後は、わが国と同じアジア地域に属するインドネシア、フィリピンを含む途上国強硬派をどう説得するかがカギとなる」と説明した。

また、「農業・NAMAで進展が見られない中、サービス交渉を進展させるのは難しい」とする一方、ルール交渉については、「交渉グループ議長から、アンチ・ダンピングの濫用防止を含む議長テキストを提示したいとの報告があるなど、一定の進展が見られる」と述べた。

吉村馨農林水産省大臣官房国際部長は、農業交渉について「米国と欧州の立場が接近したことにより、NAMAの関税削減を求める先進国と、農業の国内支持、特に米国の国内支持削減を求める途上国とが対立する構図に変わってきている。議長テキストは交渉の土台となるもので、提示されたこと自体は明るい兆しである。(わが国が反対する)上限関税は明記されなかった。他方、削減後100%超の関税率が一定以上残る場合には関税割当の追加的拡大が求められるなど、わが国にとって厳しい内容については修正を求めていく。いずれにしても、現時点で言えることは、わが国農業にとって相当大規模な改革を必要とする内容であるということである」と説明した。

【国際第一本部貿易投資担当】
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