日本経団連タイムス No.2873 (2007年8月30日)

日本経団連自然保護協議会が企業とNGOとの交流会開催

−協働で生物多様性保全へ/講演やパネル討議を展開


日本経団連自然保護協議会(大久保尚武会長)は1日、東京・大手町の経団連会館で、日本経団連自然保護基金ならびに協議会設立15周年記念として、「企業活動を通した、NGOとの協働による生物多様性保全」をテーマに、企業とNGOとの交流会を開催した。

開会あいさつで大久保会長は、自然保護・環境問題に関する社会の関心は、ますます高まっており、その中で生物多様性の問題も非常に大きな課題となっていると述べた。

第一部では、「生物多様性国家戦略と企業への期待」と題して、環境省自然環境局自然環境計画課長の渡邉綱男氏が、また、「生物多様性保全にかかわる多摩・三浦丘陵域における協働」と題して、慶應義塾大学経済学部教授・NPO鶴見川流域ネットワーキング代表理事の岸由二氏がそれぞれ基調講演を行った。

この中で渡邉氏は、昨年3月ブラジル・クリチバで開かれた国連生物多様性条約会合での決議で、企業が条約会合に参画し、大きな役割を果たすことが期待されていると述べ、企業の事業活動における環境への配慮や企業の行う環境保全プロジェクトの重要性を指摘した。

また、岸氏は多摩・三浦丘陵南端の小流域生態系である小網代の谷の近郊緑地保全活動、多摩・三浦丘陵中央部の都市河川鶴見川流域における都市型・生命地域主義的な保全活動、多摩・三浦丘陵を枠組みとしたグリーンベルト構想の実現における、行政、NPO法人、企業の協働の実績や、今後の可能性について説明した。

第二部のパネルディスカッションには、岸由二氏、IUCN(国際自然保護連合)日本委員会副会長・江戸川大学社会学部教授の吉田正人氏、新潟大学トキ野生復帰プロジェクト事務局・農学部准教授の本間航介氏、清水建設安全環境本部地球環境部長の岩本和明氏、本田技研工業社会活動推進室主幹の青木滋氏がパネリスト、コンサベーションインターナショナル日本プログラム代表の日比保史氏、積水化学工業CSR部環境経営グループ課長の福井喜久子氏がコメンテーター、日本経団連自然保護協議会の真下正樹顧問が進行役として参加。「21世紀環境立国戦略」や生物多様性保全に対して、民間セクターの立場にある企業や市民はどのような心構えで臨み、どのようにかかわればよいのかなどについて論議。特に事業活動を通じた役割、NGOとの協働のあり方などについて議論を深めた。

パネルディスカッションでは、まずNGO、企業が事例報告を行った。吉田氏は、生物多様性は「生態系サービス」((1)食料、燃料、水などの供給サービス(2)水源涵養、洪水防止、気候緩和などの調整サービス(3)レクリエーションや伝統文化のもととなる文化サービス)という形を取って人類の生存や豊かな暮らしに恩恵・影響を与えていると説明。日本は里山の経験を活かし、流域ごとの食料・エネルギー需給と循環型社会の構築を世界に発信すべきであると主張した。本間氏はトキの野生復帰の本質は、里山・棚田の環境再生と継続的維持を行うための仕組みづくりであると指摘。今後、産民官学が協働を進めるとともに、自然保護の現場と都市部との間で、人・情報・資金が継続的に還流していく仕組みが必要であることを強調した。

また岩本氏は、建設業は建物や施設の建設によって、生態系に大きな影響を与える産業であると述べた上で、NGOと建設業との協働で実現し、大きな効果を上げることのできる、従来とは異なった貢献の仕方の事例として、「道路で分断された樹上動物のためのアニマルパスウエイの設置」や「学校、学生と企業の協働によるビオトープを備えるなどしたエコキャンパスの実現」などを挙げた。

青木氏は生物多様性への貢献策として、(1)各工場の周りに「ふるさとの森」をつくる(2)NPOと連携して各事業所の水源地への植林を行う(3)世界各地の砂漠化が問題となる中、中国・内蒙古自治区のホルチン砂漠で毎年2回の植林活動を行う(4)従業員OBによる小学生への環境教育を行う(5)栃木県のサーキット内に自然体験施設を設置している――などの活動を実施していることを紹介した。

これらの事例紹介について日比氏は、(1)人口増、資源枯渇の進む中でこそ、日本は「里山」の考え方を世界に発信していくべきである(2)企業経営・戦略の中に生物多様性をどう位置付けていくかが今後の課題である――とコメント。福井氏は、(1)企業の事業活動を支える基盤としての自然環境というものをしっかりと認識すべきである(2)今や生物多様性保全に対する企業としての新しい役割・価値観が生まれている――と述べた。

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