日本経団連タイムス No.2876 (2007年9月20日)

「東京大気汚染訴訟の和解に伴う今後の公害健康被害予防基金のあり方」

−環境省から説明聴き意見交換


日本経団連は12日、東京・大手町の経団連会館で、公害健康被害補償法に関し「関係業界連絡会」を開催し、環境省総合環境政策局環境保健部の森本英香企画課長から「東京大気汚染訴訟の和解に伴う今後の公害健康被害予防基金のあり方」について説明を聴くとともに、意見交換を行った。森本課長の説明概要は次のとおり。

公害健康被害補償法(以下、公健法)は、1973年、汚染原因者負担等を前提として、公害患者を迅速・公正に保護するために制定されたもので、認定を受けた公害患者に対し医療費等の補償給付が行われた。その後、大気汚染の改善に伴い、88年に法を改正し、大気汚染に関しては、新たな公害患者の認定を行わないこととする一方で、「公害健康被害予防基金」(以下、予防基金)を創設し、その運用益によって、予防事業を開始することとした。同基金は、毎年25億円の運用益を確保することを目標として、産業界からの拠出(工場等の固定発生源からの拠出約400億円、自動車等の移動体発生源からの拠出約50億円)と国の出資(約50億円)によって造成された。

東京大気汚染訴訟は、東京都内に居住・勤務する気管支ぜんそく等の患者および遺族が、損害賠償等を求めて、国、東京都、旧首都高速道路公団およびディーゼル車メーカーを提訴した裁判で、1次提訴から11年経過している。この長期にわたる裁判を和解に導くため、5月30日、安倍総理と石原東京都知事が面会した際、総理は「予防基金から、予防事業として東京都に対し60億円拠出する」と決断した。

この総理の決断に基づき、予防基金から60億円を取り崩す。同措置に伴う主な論点に対する考え方は次のとおりである。(1)60億円の使途はあくまで予防事業であり、一部マスコミ報道にあるような医療費助成ではない。それは和解条項にも明示されている(2)基金取り崩しは、公健法附則第10条に基づき行うことが可能であり、今回の措置に伴う法令改正は不要である(3)60億円は、基金の民間拠出分のうち、訴訟の一被告である自動車業界分から取り崩すと整理する(4)基金取り崩しに伴い、予防事業費が年間2億円程度減少する。より一層効率的な運用に努めるとともに、今般、3億円の新規予算要求を行っており、予防事業費に充てたいので、産業界の支援をお願いしたい(5)産業界に対し、予防基金に新たな拠出をお願いすることはない。

環境省の説明に対し、日本経団連側からは、「本来、基金取り崩しではなく、政府予算から支出すべきではないか」「新たな訴訟が提訴され、基金が取り崩される可能性はないか」といった意見が出された。これに対し環境省から、「政治的に、医療費を出してしまえばよいという決断になることを危ぐした。東京大気汚染訴訟は11年にわたる裁判であることや総理の決断によることなど特別な事情があった。今後、このような高いハードルを満たす訴訟が出てくる可能性は低く、予防基金の追加的な取り崩しはまず考えられない」といった説明があった。

【産業第三本部環境担当】
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