日本経団連タイムス No.2876 (2007年9月20日)

「日本経団連フォーラム21」9月講座開催


日本経団連事業サービスは7日、東京・大手町の経団連会館で「日本経団連フォーラム21」の9月講座を開催した。

第1講座「21世紀、日本の立ち位置」

第1講座では、同フォーラムのアドバイザーである三井物産戦略研究所の寺島実郎所長が「21世紀、日本の立ち位置」をテーマに講演を行った。

寺島氏はまず、20世紀の日本の国際関係が、その4分の3を「アングロサクソン同盟」で生きてきた特異性に注目すべきと指摘。英国との20年にわたる同盟関係、第2次大戦後の米国との緊密な関係は、この安定軸を成功体験として日本人に認識させることになったと語った。

次に「日米関係は米中関係である」という松本重治氏の言葉を引用し、さまざまな歴史を経ながらも、常に中国がかかわり合い、関係性を形づくってきた日米関係の歴史について論述。米国と中国の関係について、表面上は反目しているように見えても心底では互いに尊敬の念を有しているとし、中国政府は留美派(米国留学経験者)を重用し外交のトップに起用するなど、米国への配慮を忘れていないと語った。一方、欧州は中国が国際化していく上でのプラットフォームとなり、その存在感も次第に大きくなってきたと指摘し、欧州の立場と動きを注視する必要があることに言及、いまこそ欧州に目を開かなければ、日本の進路を見誤る事態が起きかねないと警告した。最後に寺島氏は「日本はこれまで、産業界に軸をもって厚い中間層を形成し、そこでつくられた“産業力”を強みとしてきた。にわか金融エコノミストの台頭で近年ブレが生じてきたが、その厚い中間層を大切にすることがこれからの日本を見る上で不可欠」と結んだ。

第2講座「資本主義に向かう中国経済の現状と課題」

続く第2講座は、野村資本市場研究所の関志雄シニアフェローから「資本主義に向かう中国経済の現状と課題」をテーマに講演があった。関氏は、中国の所有制改革は抵抗の少ない部分からの漸進的改革で、徐々に成功に向かいつつあると述べる一方、高齢化社会の到来、エネルギー不足、環境など新たな問題を生み出していると指摘した。また、経済力の地域格差は大きく、1人当たり国内総生産(GDP)でみると、最も高い上海市と最も低い貴州省の間には10倍もの差が存在すると述べ、これを是正するには、制限のある戸籍のあり方を改革し、労働力と資本の移動を促進すべきと述べた。さらに医療、教育、住宅の改革が必要であり、環境問題はGDPの3%が損失になるほどの大きな問題になっていると指摘した上で、この点は、省エネルギー化を日本に学べばよいと語った。

また、中国経済は高成長を続けているが、1960年代の日本や80年代の韓国の高度成長期に比べて資本効率が低く、生産能力も過剰状態と指摘。例えば鉄鋼業は、日米欧の生産能力を凌駕するポテンシャルがありながら、その6割強の需要しか持ち合わせていないと述べた。その根幹には、国有企業の古い設備の存在と民間企業の参入による無秩序な規模の拡大があり、企業の合併・買収を通じて設備を十分に生かしていくことが肝要だと指摘した。「抓大放小」(そうだいほうしょう、大をつかみ小を放つ)の名の下、中小国有企業の民営化が課題となり、97年の第15回共産党大会で戦略的再編が唱えられ、民営化が進行している。関氏は「いま中国は全面的な小康社会(いくらかゆとりのある社会)への道を一歩一歩前進している最中、これからの動きを見守っていくことが大切だ」と締めくくった。

【日本経団連事業サービス研修担当】
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