日本経団連タイムス No.2886 (2007年12月13日)

米国連邦巡回控訴裁判所・レーダー判事と懇談

−パテントトロールへの対応など、知財めぐり意見交わす


日本経団連は11月20日、東京・大手町の経団連会館で、米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)のランドール・レーダー判事との懇談会を開催した。

懇談の冒頭、あいさつに立った野間口有知的財産委員長は、「わが国では知財立国をめざし、産学官が一体となって取り組みを推進してきた。今後は、知財をめぐる世界的な課題の解決に向けて、積極的に取り組まなければならない」と述べた上で、「米国では、先発明主義の見直しを含む特許法の改正が検討されており、世界特許の実現に向けた節目を迎えていると考えている。また、パテントトロール(注)のように特許権者の権利行使がどこまで認められるのかが問われるような問題も起こっている。本日の懇談を通じ、世界におけるより良い知財制度づくりに向けて、どのように取り組みを進めれば良いのか共通認識を深めたい」との考えを示した。

続いてCAFCのレーダー判事の講演が行われた。レーダー判事はまず、「イノベーションを創出し、競争力を確保していく上では知財の保護がカギであり、世界各国は知財の重要性を踏まえ、さまざまな政策を進めている」と述べた上で、近年、米国の連邦最高裁判所やCAFCが下した重要判決を紹介した。

その中でレーダー判事は、特許が故意に侵害された場合、損害賠償額を3倍まで引き上げられるという米国独特の制度に関して、故意による侵害認定の基準を従来よりも厳しくし、賠償額を引き上げにくくした『シーゲート判決』が実務に対するインパクトが最も大きいと指摘。その一方で、「最近の米国での重要判決は、特許所有者に不利な内容になっているが、これは権利保護のプロセスやバランス等を見直しているだけであり、知財を通して競争力を維持するという米国の基本的なイノベーション政策を変更するものではない」と述べた。

また、今後、米国上院議会で審議が予定されている特許法改正法案については、「損害賠償の計算方法の制限などをめぐって、エレクトロニクス業界と医薬業界が鋭く対立していることもあり、法案が可決されるかどうかは五分五分の状況である」との見解を示した。

パネルディスカッションも

引き続いて、ジョージ・ワシントン大学のマーティン・エーデルマン教授、東京大学の玉井克哉教授が加わり、パテントトロールへの対応を中心にパネルディスカッションが行われた。その中では、日本企業はパテントトロールに対する法的対応を強化すべきこと、日本では従来、立法による規制が行われていたが、米国と同様に司法の役割を拡大していく方が良いこと、そして、パテントトロールのような特許権を濫用している者への規制は、イノベーティブな特許の保護に反するものであってはならないことなどの指摘がなされた。

最後にあいさつを行った加藤幹之企画部会長は、「日米間の司法、立法、行政のシステムの違い、また、パテントトロールに対する意識の違いを感じた。日本において権利濫用による問題はそれほど大きくなっていないが、日常的に訴訟が行われている米国の状況から学ぶべきことは多くあり、今後、わが国においても議論していかなければならない」との考えを示した。

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(注)自社では製品・サービスの製造、販売を行わず、他者から購入した特許権を行使して利益を上げることを目的とする企業、団体、個人のこと
【産業第二本部開発担当】
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