日本経団連タイムス No.2887 (2008年1月1日)

08年版「経労委報告」を公表

−「日本型雇用システムの新展開と課題」


日本経団連は12月19日、『2008年版経営労働政策委員会報告』 <概要:PDF> (経労委報告、委員長=草刈隆郎副会長)を公表した。今次報告では、本報告の本来の目的である、春季労使交渉に向けた経営側としての指針を示すものという原点に立ち返り、取り上げる内容を企業経営と労使関係、労働諸施策に直接関係する課題に絞っている。また、同報告は3章構成となっており、今次労使交渉・協議における経営側のスタンスは、第2章で触れている。概要は次のとおり。

<第1章 わが国経済をめぐる環境変化と課題>

グローバル競争が激化する中で、わが国が今後、持続的な経済成長を実現していくためには、生産性を引き上げ、国際競争力を高めることが不可欠である。また、少子高齢化の進行により、趨勢的に人口が減少していくことから、老若男女すべての人々の力を最大限に引き出す全員参加型社会を実現し、わが国経済社会の活力の維持・向上につなげていくことが重要である。そのために、若年者等の就労を促進させ、女性や高齢者についても就労機会を拡大していくことが重要な課題である。

<第2章 日本型雇用システムの新展開と労使交渉・協議に向けた経営側のスタンス>

(1)日本型雇用システムの新展開

日本型雇用システムは、人間尊重をベースに、「新卒採用」「長期雇用」「年功型賃金」「企業内労使関係」の4点を特徴としてきたが、グローバル化の進展や人口減少下における少子高齢化など経営環境が変化する下で、日本型雇用システムも変化してきている。
採用に関しては、新卒中心から、通年・中途採用の推進、女性・高齢者の積極的活用が進み、多様な人材の採用・活用へと変化している。雇用制度に関しては、長期雇用を基本としつつも、ワーク・ライフ・バランスや働く人のニーズに対応するため、期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員の活用も進めている。賃金制度に関しては、長期雇用従業員のみを優遇し、多様な人材の採用・活用を阻害する要因の一つとなっている年功型賃金から、仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度・評価制度の整備を進めている。企業内労使関係に関しては、良好な関係を引き続き堅持するため、コミュニケーションの充実に取り組んでいる。

(2)労使交渉・協議に向けた経営側の基本スタンス

賃金をはじめとする労働条件を決定する際には、特に、(1)グローバル競争の激化(2)総額人件費の管理(3)わが国経済の安定した成長の確保――という三つの視点を念頭に置く必要がある。
その上で、賃金をはじめとする総額人件費の決定に際しては、引き続き自社の支払能力を基準に考える必要がある。総額人件費の増加額は、あくまで自社の労働や資本によって生み出される付加価値額の増加額の範囲内で、利払い費、配当、内部留保なども考慮し、個別企業ごとの交渉で決定すべきである。恒常的な生産性の向上に裏付けられた付加価値額の増加額の一部は、人材確保なども含め総額人件費改定の原資とする一方、需給の短期的な変動などによる一時的な業績改善は賞与・一時金に反映させることが基本である。また、個別企業の支払能力を無視して横並びで賃金を引き上げていく市場横断的なベースアップは、既に過去のものとなっており、もはやあり得ない。
なお、いかなる総額人件費の決定を行うかは、あくまで個別労使の協議によるが、全規模・全産業ベースでは増収増益基調にあるとはいえ、企業規模別・業種別・地域別に相当ばらつきがみられる現状において、賃上げは困難と判断する企業数も少なくないと予測される。
こうした考え方に立てば、労使の共通の課題は個々の企業の生産性の向上であり、労使の協力・信頼関係と円滑なコミュニケーションを活かした生産性向上策を導入することが労使双方に求められる。

(3)ワーク・ライフ・バランスの実現

ワーク・ライフ・バランスの実現は、従業員が仕事への満足度を高め、意欲を持って仕事に励むことを通じて生産性の向上につながることが期待できるとともに、企業にとっては、優秀な人材を採用しやすくなる効果もある。
そのために、業務を時間内に確実に遂行できるような効率的な働き方や、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方の推進が必要である。これらは労使の合意と協力で自主的に進めるべきである。

<第3章 生産性向上・多様な働き方を可能とする制度の整備>

労働市場の需給調整機能を高め、意欲と能力のある者がそれに応じた就労の機会を得られるようにしていくとともに、職業能力向上の機会を充実させ、就労促進型の雇用のセーフティネットを整備していく必要がある。企業もトライアル雇用制度の活用、来年度から導入される新たな職業能力開発施策としてのジョブ・カード制度への協力、インターンシップの受け入れなどに、積極的に取り組んでいく必要がある。
働く時間や場所について、短時間勤務など多様化が進んでいる。政府においても、多様な就業形態を可能とする観点から、基本的に事業場内労働を前提とした労働時間規制を、実態を踏まえつつ弾力的に運用していく必要がある。また、従来の労働時間法制や対象業務にとらわれない、自主的・自律的な時間管理を可能とする制度の検討や、子育て世帯への支援措置の充実が重要である。
依然厳しい経営状態にある中小企業の収益力の強化を実現していくには、企業自らの努力を基本とした生産性向上と、積極的な政策支援が不可欠である。
日本経済は、地域別にみれば、景況感や雇用・所得環境などの面で、ばらつきが見られる。縦割りではない一体的な地域経済戦略の推進や、究極的な構造改革として道州制の導入が急がれている。
最低賃金制度は、働く人々の生活の安心を確保する上での、賃金面でのセーフティネットである。最低賃金の底上げは、企業のコスト構造や雇用維持の観点を考慮し、あくまで企業の生産性向上に裏付けを得て、中長期的に図られるべきものである。

【労政第一本部企画担当】
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