日本経団連タイムス No.2898 (2008年3月20日)

イスラム金融の現状と今後の課題で説明聴く

−金融制度委員会企画部会


日本経団連金融制度委員会企画部会(山崎敏邦部会長)は5日、東京・大手町の経団連会館で、国際協力銀行の前田匡史資金金融部長を招き、イスラム金融の現状と今後の課題について聴いた。

イスラム金融とは、イスラムの法(シャリーア)に適合した金融をさす。イスラムの教義上、不労所得と同視される利子(リバー)を取ることが禁じられているため、事実上の融資も売買やリースの形態を取って行われる。現在マレーシアや中東を中心に世界的に拡大しており、その市場規模は1兆ドルを突破しているともいわれる。最も基本的な形態である「ムダラバ」は、出資者の資金をまとめ、事業者が資金を投資・運用することで利潤を上げ、それを配当として出資者に戻す仕組みを取る。出資者が受け取るのはあくまでも事業者の投資・運用の成果としての配当であるので、リバーの禁止に当たらず、シャリーア不適格とはならないという理屈である。

しかし、わが国では、商品の現物取引等の業務を銀行が行うことができなかったため、イスラム金融を扱うことができなかった。しかし、今通常国会で審議中の金融商品取引法の改正により、銀行・保険会社の子会社・兄弟会社による取り扱いができることが明らかになったことを受け、同部会ではイスラム金融への今後の対応について意見交換を行ったものである。

前田部長は、イスラム金融のこのような発展は、もともとは、ムスリムのリテールが中心であると指摘。例えば英国はイスラム国家ではないが、在住者・長期滞在者にムスリムが多いため、イングランド銀行や金融庁では早い段階からイスラム金融を勉強し、イスラム金融と通常の金融の競争条件を平等にするという観点からの制度整備も進んでいると述べた。そして、このようなイスラム金融の世界的拡大に大きく寄与しているのがマレーシアであると説明。同国が1980年代からイスラム金融法を制定し、イノベーティブなイスラム金融商品を開発・提供し、2002年に初のグローバル・ソブリンスクークを発行したことや、イスラム金融の振興を国家目標として行うものとして、バンクネガラ・マレーシア(中央銀行)がMIFC構想(マレーシア・イスラム国際金融センター化計画)を打ち出していることを紹介した。また、マレーシアが特に力を入れているスクーク(イスラム債)の発行額そのものが右肩上がりに伸びており、最近では30億ドルを調達するスクークが発行されたことなどを受け、マレーシア政府発行イスラム債の格付けもBBBからAに上がったと述べた。

従って、しばしば関係を論じられるオイルマネーの影響はあくまで間接的であり、石油による余剰マネーを直接運用している政府系投資ファンドはイスラム金融手法を採用しているのではないことから、区別して考えるべきであることを指摘した。

前田部長は、一方で、イスラム金融が今後日本で発展していく上での課題も多いとの見解を示した。まず、シャリーアに適合するかを判断するシャリーア・ボードの解釈基準は必ずしも一定でなく、日本のような非イスラム国家による商品だとより厳しくなる傾向が見られる現状を述べた。また、日本にはムスリムが少なく、リテールの需要が見込めない点が課題であるとした。

そこで、今後日本の金融機関が新たにイスラム金融に取り組むのであれば、既に日本企業で一定の実績のあるタカフル(イスラムの保険)や、スクークアレンジャー業務から始めていくのが適当であるとの考えを示した。また、イスラム金融に関して先行し、実績を持っている欧州やマレーシアなどと協力して提携しながら参入していくべきだとし、ジョイントベンチャーを立ち上げて、海外のパートナーがつくった枠組みに上積みする形などもよいとした。

出席者からは、シャリーア・ボードの解釈の実態や、今後金融商品取引法に係る内閣府令や税制を整備していく上での注意点について質問があった。

これに対し、前田部長はシャリーア・ボードによるシャリーア適格性の判断の統一化を図ることは容易ではないが、例えばマレーシアでは、外国のシャリーア法学者を含め、事前審査付きの登録制度や上級審査を行うシャリーア委員会をつくるなどの取り組みを行っているほか、バーレーンに本部を置く国際機関であるAAOIFI(イスラム金融機関会計監査機構)が解釈基準を示すなどの取り組みを行っていると述べた。また、非イスラム国である英国なども税制面での取り扱いについて長い時間を掛けて検討し、徐々に制度が整備されてきたことを受け、制度面の整備がなされるにはまだ時間が掛かるであろうと述べた。

【経済第二本部経済法制担当】
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