日本経団連タイムス No.2900 (2008年4月3日)

「知的財産推進計画2008」策定に向けて提言を公表

−知的財産立国実現の原点に立ち返り、新たな産業・文化戦略構築へ
/知的財産への意識高まる


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は3月18日、知的財産委員会(野間口有委員長)と産業問題委員会(齋藤宏共同委員長、西田厚聰共同委員長)が連携して取りまとめた、「『知的財産推進計画2008』の策定に向けて」 <PDF> を公表した。

同提言は、政府の知的財産戦略本部において検討が進められている「知的財産推進計画」に向けて、知的財産分野の諸課題に対する産業界の見解を示すものである。

2002年にスタートしたわが国の知的財産政策への取り組みは、今年で7年目を迎える。知的財産委員会では、新たな政策展開を検討するためには、これまでの取り組みの成果を評価する必要があると考え、アンケート調査を実施した。

調査結果 <PDF> によると、知的財産に対する意識について、「かなり高まった」「高まった」とする回答が79.0%となっている。また、知的財産の創造活動、保護については、「かなり活発になった」「活発になった」とする企業が半数を超えており、これまでの取り組みによって、企業の知的財産に対する意識、位置付けが向上したといえる。

今回の提言では、官民一体となった知的財産政策への取り組みが一定の成果を挙げてきたことを踏まえた上で、知的財産立国の実現という原点に立ち返り、新たな産業・文化戦略の構築という視点から検討を行った。主な提言内容は次のとおり。

1.オープン・イノベーションの推進と知的財産立国の実現

(1)権利行使のあり方の検討

いわゆる「パテントトロール」のような、自らは研究開発投資を行わず、他人の特許権を買い、それを濫用して利益を得る者に対しては、イノベーションが阻害されることがないよう、差し止め請求権や損害賠償の範囲等について何らかの制限を行うべきである。

(2)著作権法制の整備

デジタル化・ネットワーク化という新たな環境の変化に対応するため、従来のシステムに加えて、新たなシステムを整備し、複数システムによって権利保護と利活用促進の新たなバランスを構築し、産業の活性化や文化の発展を図るべきである。

(3)企業間の協業や連携の促進

オープン・イノベーションを促進するため、特許権者が所有する特許発明について、第三者の実施許諾を拒否しないことを登録する制度を検討し、知的財産の幅広い活用を促すべきである。

(4)企業の国際標準化活動の推進

企業の国際標準化活動の強化のため、国際会議等に参加する際の費用助成の要件を柔軟にすべきである。また、中堅・中小企業の中には、国際標準の策定に自ら参加できるとの認識が浸透していないおそれがある。政府として理解増進を促すとともに、支援を強化すべきである。

(5)模倣品・海賊版対策の強化

模倣品・海賊版対策のさらなる強化が求められる中、知的財産権の法的執行を強化するための国際的な枠組みである「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」の早期実現に取り組むとともに、「模倣品・海賊版撲滅キャンペーン」を各国が同時に開催する“世界週間”の実施を検討すべきである。

(6)世界特許の実現に向けた取り組みの強化

世界特許制度の実現に向けて、現在、各国特許庁間で行われている審査協力への取り組みを強化するとともに、参加国の拡大や多国間の枠組みによるプログラム展開を行うべきである。また、日本特許庁と他国の特許庁の審査官による共同審査の実施等を検討し、審査クオリティーの統一を図るべきである。

2.コンテンツ産業の振興

わが国政府は、知的財産政策の重要な柱としてコンテンツ産業の振興に取り組んでいる。しかし、支援の内容は欧州等の諸外国と比べて十分とはいえない。政府は、文化産業戦略を構築し、継続的かつ府省横断的な体制整備に取り組むとともに、コンテンツ産業振興を促すための法制度の制定を検討すべきである。

(1)コンテンツの創造力の強化

コンテンツの創造力を強化するため、プロデューサーやクリエイターをはじめとする人材育成、また、映像教育体系の確立やコンテンツ統計の整備等による教育基盤の整備、さらには、資金調達の多様化に向けて、政策金融機関によるコンテンツ制作者等への出融資の拡充やコンテンツ制作にかかる税制上の支援措置等を推進すべきである。

(2)コンテンツの新たな市場の創出と流通の促進

わが国コンテンツの海外展開を促進するため、昨年から始まったJAPANコンテンツフェスティバルをさらに充実させるとともに、JETRO、在外公館等におけるコンテンツの情報収集、提供および発信機能の強化を通じて、コンテンツの国際展開を支援すべきである。また、コンテンツのマルチユースを促進するため、コンテンツ・ポータルサイトの機能強化や権利者情報の整備等の取り組みを支援すべきである。

【産業第二本部開発担当】
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