日本経団連タイムス No.2902 (2008年4月17日)

国民視点に立った先進的な電子社会実現へ提言

−「電子行政」など4分野での取り組みの課題と対策提示


日本経団連(御手洗冨士夫会長)は15日、提言「国民視点に立った先進的な電子社会の実現に向けて」を発表した。同提言は、わが国が「国民視点に立った先進的な電子社会」を構築するために、「電子行政」「企業のIT経営」「情報セキュリティ」「高度情報通信(以下、ICT)人材育成」の4分野における取り組みを推進する上での課題と対策を取りまとめたものである。

第一章「はじめに」では、提言の目的を述べている。政府では、2006年から「IT新改革戦略」に基づく取り組みを推進しているが、4分野の進捗にはバラつきがある。今年は「IT新改革戦略」の折り返し点に当たるが、わが国が抱える課題を「見える化」し、その対策を提案し、戦略の実現を確実なものにすることが提言の目的である。

第二章では、効率的で透明性の高い電子行政を実現するための提案を行っている。現在の政府の取り組みでは、行政の業務改革や国民の目線が欠落しており、電子行政をトップダウンで推進できるような体制も十分に整ってはいない。そこで提言では、実現すべき電子行政の姿を明確に示した上で、まず、電子行政の実現のために、省庁横断的かつ強制力のある推進体制として、総理大臣直轄の「電子行政推進会議」と、実務およびICTの専門家からなる「電子行政推進センター」を設置するべきであると述べている。また、「電子行政推進法」を制定し、各省庁に業務改革や電子申請の原則化を法的に義務付けることや、国民の合意の下で、個人・企業等に対する認識コードを統一することも提案している。

第三章の「わが国企業におけるIT経営の推進」では、まず、わが国企業の経営トップの多くは、ICT投資の重要性に対する理解が米国等と比較して不十分であることを指摘し、企業がICT戦略を遂行する上で重要な役割を担うCIO(最高情報責任者)人材の育成・活用を推進することを提案している。また、企業間でベストプラクティス等を共有できるような仕組みづくりや、中小企業への支援強化により、IT経営の底上げを図るべきであると述べている。

第四章の「情報セキュリティガバナンス」については、情報セキュリティの脅威がますます多様化・高度化し、人的要因による情報漏えい事故も引き続き発生していることを踏まえ、対策として、米国にならい、政府機関には法律で情報セキュリティ対策の強化を義務付けることを提案している。また、過去の情報漏えい事故等から得た教訓を共有するためのデータベース構築や、情報セキュリティ水準の可視化に向けた取り組みを官民連携で進めることを提案している。

第五章の「高度ICT人材の育成と活用の推進」については、産業界側が求める人材と大学が供給する人材にミスマッチがある中、日本経団連では筑波大学、九州大学と連携して大学院の新コースを立ち上げるなど、個別の取り組みを進めている。今後、このような産学共同による自発的な取り組みをいかに国として持続可能な仕組みとし、全国に拡大するかが課題である。提言では、日本経団連が昨年12月の提言「高度情報通信人材育成の加速化に向けて」で提案しているナショナルセンター構想の実現により、国主導による安定的な高度ICT人材育成を推進すべきであると提案している。

最後に、第六章の「おわりに」では、提言がめざす電子社会の実現のためには、行政、経営、それぞれのトップのリーダーシップの下、PDCAを着実に回していくことが重要であると述べて締めくくっている。

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御手洗会長は10日、提言の公表に先立ち、岸田文雄内閣府特命担当大臣を訪問し、電子行政の推進に関し、業務改革の遂行と新たな推進組織の設置を要請した。日本経団連としては、同提言で提案した体制・法制の整備を含め、電子行政の実現に向け、政府への働きかけと連携を強化する所存である。

【産業第二本部情報通信担当】
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