日本経団連タイムス No.2906 (2008年5月29日)

ソブリン・ウェルス・ファンド

−今後の課題など聴取/金融制度委員会企画部会・資本市場部会合同部会


日本経団連の金融制度委員会企画部会(山崎敏邦部会長)と資本市場部会(島崎憲明部会長)との合同部会は20日、東京・大手町の経団連会館に、大和総研の柏崎重人企業財務戦略部長を招き、ソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)の動向と、今後の課題について聴いた。

SWFとは、狭義には(1)国家意思の反映(2)外貨収入の運用(3)中央銀行との分離(4)年金基金は含まない――といった特徴を持つファンドを指す。SWFは石油を中心とした先物市場の高騰、新興国の成長・貿易黒字を背景に、急成長を遂げている。一方、その投資行動や運用ポリシーは多様であり、運用に関しての情報開示もその規模からすれば十分ではない。

柏崎部長は、「歴史の長いSWFは、元来、投資対象として大型・成長・高流動性を選好し、投資ファンドなどと異なりレバレッジを利用せず、金や国債などを中心としたパッシブな投資を続けてきていた」と説明。それが、「最近のドル不安を受け、ドル建て債券への集中投資からリスク分散を考えるようになり、デットからエクイティへ移行するなど、積極的な投資行動が見られるようになった」と指摘した。また、ここ数年は世界的な株式などのリスクプレミアム低下を受けて、一部でヘッジファンドやプライベートエクイティファンド(PEF)などオルタナティブ投資を手掛けるようになった例もある。

一方、近年設立されたSWFは資産運用の目的・手法・体制などが固まっていないところが多く、差し当たり株式割合が高めの年金型ポートフォリオ投資で相対的に高いリターンを求め、併せて自国の産業振興に役立つ、ノウハウや技術の供与が得られる可能性などのメリットを求める傾向があるとした。

このようなSWFに対して、SWFの受入国ではサブプライムローン問題により資本が劣化したグローバル金融機関へのファイナンスが期待され、これまでPEFのM&Aファイナンスの肩代わりや米国の大手金融機関への資本注入が行われてきた。ただ、SWFにとっては期待していた利益が得られる兆しが後退していることもあって、投資が順調に継続されるかどうか不透明な状況になりつつある。

また、自国の資産、特に安全保障や戦略的資産などが新興国の公的セクターへ移転することを懸念する声も高まっている。一方でSWF保有国は先進諸国における保護主義の台頭を警戒している。

こうした中で、SWFに対し一定の規制をかけようという動きがある。中心になりそうな動きとして、G7等の要請を受けたIMF(国際通貨基金)が、米国とSWF保有国合わせて25カ国からなるワーキング・グループを発足させ、2008年10月までに「ベスト・プラクティス」を策定することになっている。これは、原則としてグローバルな投資の自由を確保するものの、情報開示などを一定の原則下でSWFに行わせようとする試みだ。柏崎部長は、「OECDやEUにおける検討もIMFのベスト・プラクティスに集約されつつある」と述べた。

また、「米国が今年3月にシンガポール・UAEと相互協定を結び、SWFからの投資を歓迎することを表明したが、現在このように多国間アプローチによって情報開示のルールをつくり、問題となるところを自国ルールや二国間ルールで補う形で進むのではないか」と紹介した。

意見交換では、参加者からSWFがPEFを通じて行う間接投資の影響力の大きさが指摘され、今後IMFの策定する「ベスト・プラクティス」を受けて情報開示が進むのかとの質問があった。これに対し柏崎部長は、SWFも各々投資の姿勢が多様であり、「ベスト・プラクティス」として具体的な開示水準のあり方を一般化・合意できるかは不明であるとした。また、「最近はSWFが単独で投資をして波紋を呼ぶ例があったことから、PEFに投資したり、欧米の投資銀行等と組んで共同投資を行ったりする動きが増えている。いずれにせよ、SWFが主体的に傷付いた金融機関を救うためだけに、単なる資本注入を続けたり、ホワイトナイトのような行動を取ったりすることを過度に期待するのは禁物」と指摘した。

【経済第二本部経済法制担当】
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