日本経団連タイムス No.2908 (2008年6月12日)

税制の国際的潮流と抜本的税制改革のあり方について意見交換

−税制委員会企画部会


日本経団連は2日、東京・大手町の経団連会館で税制委員会企画部会(田中稔三部会長)を開催し、財務省主税局で税制改正の中心的な役割を果たし、現在、中央大学で租税法を研究している森信茂樹教授から税制の国際的潮流と抜本的税制改革について説明を受けるとともに意見交換を行った。
福田総理は、今年度中に税制抜本改革を進めることを明言している。日本経団連では、社会保障制度と税制の抜本改革を御手洗冨士夫会長2期目の最重要課題の一つと位置付け検討を進めており、今回の会合はその一環。
森信教授からの説明概要は次のとおり。

■ 最近の税制改正の世界の潮流

ヒト・モノ・カネがグローバルに動く経済の中では、効率的な税制をつくることがより公平な経済社会の構築のために不可欠。このような流れから、各国で所得税率・法人税率が引き下げられ、所得課税から消費課税への大きな流れが定着している。さらに、ヨーロッパ諸国では、金融所得を分離して低率で課税する考え方が広がっており、アメリカでも二元的所得税の議論が始まっている。もはや包括的所得課税に立脚した税制は時代遅れとなってきている。

税制の効率化を進めていくと、税制の機能の一つである所得再分配を補完する必要性が出てくる。そのため1990年代の米英などでは、税額控除を行い納税額のない低所得者層には還付をするという、税制と社会保障制度をつなげた給付付き税額控除制度が導入され、低所得者層の負担の軽減、所得再分配機能の強化が効果を上げている。

■ ドイツの税制改革

ドイツでは、法人税制の改革をはじめ、なかなか改革が進まなかったが、大連立政権の下で2007年から非常に大きな改革が行われた。改革の概要は次のとおり。

  1. 消費税を3%引き上げ(16%⇒19%)、1%分は失業保険料の引き下げにより企業負担を減少させる。
  2. 企業の支払利子の損金算入を一部分否認して課税ベースを拡大し、法人税率を10%下げて法人実効税率を30%にする。
  3. 利子・配当・キャピタルゲインを一律に25%の源泉分離課税とする金融所得一元課税を導入する。

ドイツでは高い法人税制のために隣国への所得移転が大きな問題となり、雇用が守れなくなるのではないかという危機感を国民が共有していたという背景がある。

■ 日本の税制改革に向けた課題

日本の法人税は表面税率も実効税率も高く、立地の国際競争力の観点から大きな問題が起きている。法人税を含む抜本的税制改革は日本にとって絶対に必要であり、一日も早く実現しなければならない。しかし、法人税減税に関して国民の理解は極めて低い。そこで、法人税改革の重要性を訴える意味でも、租税特別措置や減価償却制度の見直しにより課税ベースを広げ、わずかでも法人税率を引き下げることから検討してもいいのではないか。また、地方法人課税のうち、法人事業税の外形標準課税は、極めていびつな形の税制であり見直しが必要である。

効率的な税制改革を進めていくには、所得再分配を併せて考えていかなければ国民の理解は得られない。消費税を引き上げる際には、消費税の軽減税率の導入が議論となるが、それよりも給付付き税額控除を導入して逆進性対策を行う方が効率的である。

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税制委員会では、引き続き、税制抜本改革についての議論を進め、考え方を取りまとめていく予定である。

【経済第二本部税制・会計担当】
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