日本経団連タイムス No.2908 (2008年6月12日)

第97回ILO総会開幕

−ディーセント・ワーク実現へ企業の役割の重要性を主張/立石国際労働委員長が代表演説


ILO(国際労働機関)の第97回総会が5月28日、スイス・ジュネーブで開幕した。会期は6月13日まで。日本経団連は、立石信雄国際労働委員長を代表とする6名の日本使用者代表団を派遣している。9日には立石委員長が代表演説を行い、企業は経済発展とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現に貢献しながら、人々に幸福をもたらす存在であると主張するとともに、各国政労使が労働政策や労使関係づくりを主体的に推進するために、技術的な支援の面からのILOの役割が重要であると指摘した。

また、2日には3年に1度の理事選挙が行われ、鈴木俊男日本経団連国際協力センター(NICC、御手洗冨士夫会長)参与が使用者側理事として5回目の当選を果たした。

総会に向けて発表された事務局長報告では、グローバル化が進む今日、世界的に貧困や格差の問題に加え、金融危機や環境問題なども発生しており、世界が抱えるこれらの問題に対して、ILOが掲げるディーセント・ワークの推進がその解決につながると指摘している。この報告を受けて、本会議では各国の政労使代表が今後のILOの活動のあり方について見解を述べた。

9日に代表演説を行った立石代表は、日本におけるディーセント・ワーク実現の課題として、ワーク・ライフ・バランスに言及。昨年12月に政労使の合意によって策定されたワーク・ライフ・バランス憲章を例に、ディーセント・ワーク実現には政労使の対話が不可欠であると指摘した。

また、企業は社会の期待に応えることができてこそ、社会から信頼され存続することが可能になると指摘。経営者は社会的存在としての企業という考え方を肝に銘じるとともに、このような考え方をILOを構成する各国政労使で広く共有していきたいと強調した。

■ 技術議題の審議状況

第4議題「貧困減少に向けた地方における雇用の促進」(一般討議)

世界の貧困層の多くは地方に住み、その主たる産業である農業の生産性の低さが貧困からの脱却を阻んでいる。同議題は地方の貧困減少のために必要な開発政策、雇用政策、教育訓練などを討議するものである。
使用者側は、農業・非農業を問わず、まずは地方において雇用を創出することが不可欠であると指摘し、各国政府はそのための環境整備として、安定的なマクロ経済政策、公正な競争、教育訓練の拡充、適切な社会保障などの重要性を強調している。
一方、労働側は、地方におけるディーセント・ワークの実現は、政府・使用者の責任であること、ILOの地方に関連した国際労働基準に沿った国内制度の整備が必要であることを主張している。

第5議題「生産性向上、雇用成長と発展のための技能」(一般討議)

同議題は、雇用と生産性の双方を増加させるためには、経済・社会政策と連動したどのような技能開発が必要であるか、また、技能開発を、労働者のエンプロイアビリティーや企業の持続可能性につなげるにはどのような方策が必要であるか等について討議を行うものである。
労働側から、職場の生産性向上による成果が、技能開発を通じた個人の職の質の改善につながらない場合があり、技能開発投資に重点配分されるべきとの意見が出される一方、使用者側からは、生産性向上がなければ雇用が維持されないので、まずは雇用を維持し、企業を存続させることを念頭に置いた技能開発投資が必要であるなどの意見が出されている。

第6議題「グローバル化において加盟各国を支援するためのILOの機能強化」(一般討議)

同議題は、来年のILO設立90周年を目前にして、グローバル化が進む今日においてILOの活動を再定義し、各国でのディーセント・ワーク促進のためにILOが果たすべき役割などについて討議するものである。
現在、ILOが今日担うべき役割を改めて示す「公式文書」をまとめることを中心に討議が進んでいる。各国政労使ともにその文書を簡潔でわかりやすいものにするということでは合意しているものの、政府側はILOへの新たな報告義務が生じないものとすること、使用者側からは雇用創出などにおける企業の重要な役割を明記すること、労働側はディーセント・ワークの内容として労働者保護などを具体的に記すことなどをそれぞれ主張している。

【労政第二本部国際労働担当】
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