日本経団連タイムス No.2908 (2008年6月12日)

シンポジウム「国際競争を勝ち抜くためのイノベーションとは―英国ジャーナリストの見解」

−経済広報センターが開催


経済広報センター(御手洗冨士夫会長)は5月23日、東京・大手町の経団連会館で、シンポジウム「国際競争を勝ち抜くためのイノベーションとは―英国ジャーナリストの見解」を開催した。同センターの招聘で来日した4つの高級紙の5名の記者たちが、日本の産業界の高い技術力の維持・発展のための課題について、英国の事例と照らし合わせて意見を発表した。また後半は、東洋経済新報社・取締役の山縣裕一郎氏をモデレーターに迎え、パネルディスカッションを行った。当日は、会員企業・団体などから約90名が出席した。

まず、タイムズ紙経済次長のグラーニャ・ギルモア氏が、英国の製造業は、サービス産業が拡大しその影に隠れてしまっているが、輸出の半分を占め、300万人の雇用があり、いまだ英国経済を支えるのに十分な存在であるとし、他社との差別化を図り、市場が求める最適な製品を出していける企業が生き残っていると説明した。その上で、研究開発でのイノベーションは当然のことながら、革新的生産工程の導入や、ソフト型イノベーションといわれる経営面での改革を行っていく製造業がこれからも英国で生き残っていけると示唆した。

ロビン・ハーディング氏は、フィナンシャル・タイムズ紙の経済論説委員を務めており、国の研究開発投資に関し話をした。日本の研究開発費はGDPの3%を占め世界トップであるが、純粋科学における支出効果が、論文引用率や特許数からみると英米と比べかなり低いと指摘した。イノベーションを促進するために日本政府が考えるべきことは、どれだけの費用を支出するかではなく、どう使うかであり、既に多くの投資をしてきている大学での研究成果をいかにビジネスへ転用するか等、投資効果を上げていくことが課題だと述べた。

同じくフィナンシャル・タイムズ紙のエンタープライズ・エディター兼コラムニストのジョナサン・ガスリー氏は、英国人は発明を実用化させてもうけることが不得手だと、多くの英国人が不満を持っており、イノベーションを成就させるには、技術と起業をうまく橋渡しする機能が必要だと指摘した。この機能がうまくいった例として、社内に研究開発部隊を持たず大学や研究所と提携しているロールスロイスや、優れた技術者であり起業家でもある、バッグのない掃除機を開発したジェームス・ダイソン氏等を挙げた。

ガーディアン紙経済記者のアシュリー・シーガー氏は、日本は、再生可能エネルギーの利用が極めて少ないことを指摘した。エネルギー需要の1.3%のみ(原子力を除く)であり、太陽光発電装置や風力発電では日本企業がかつて世界トップを誇っていたが、今ではドイツ等にその座を奪われている。かつてトップだった日本企業は海外市場で活路を見いだしているが、イノベーションというのは、国内市場が十分に確保されなければ伸びていかないと持論を展開した。

最後に、デイリー・テレグラフ紙経済部長のダミアン・リース氏が、英国はサッチャー政権下で、産業界だけでなく社会全体がイノベーションによって大きく変化したと解説した。所得税率や法人税率を下げることで、イノベーションが呼び起こされ、結果、逆に税収が上がったのである。こうした変化の最たる成功例に金融サービス産業を挙げた。しかしこれら変化の結果、相対的な経済格差が生まれ、金融面での不安が拡大しており、現政権の交代もあり得る状況になってきていると、そのマイナス部分も指摘した。

後半のパネルディスカッションでは、日英間等の国をまたいだ協力がイノベーションを生み、互いが勝者となるとの考えや、英国型起業家精神や教育、イノベーションによるマイナス効果等について活発な討論が行われた。

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