日本経団連タイムス No.2911 (2008年7月3日)

税制抜本改革で意見交換

−石・政府税調元会長から説明聴く/税制委員会


日本経団連は6月24日、東京・大手町の経団連会館で税制委員会(張富士夫委員長、大橋光夫共同委員長)を開催し、政府税制調査会の元会長で、放送大学の石弘光学長から抜本的税制改革について説明を受けるとともに意見交換を行った。

日本経団連では、社会保障制度と税制の一体的抜本改革を御手洗会長2期目の最重要課題の一つと位置付け検討を進めており、今回の会合はその一環。石学長からの説明概要は次のとおり。

1.今後、税制改革にどう取り組むべきか

「税制抜本改革」は、この30年間日本では本格的に動いていない。税制抜本改革は増税を含むこととなるため、極めて不人気である。これまでの日本は、景気が良い時には自然増収で安心し改革が進まず、景気が悪くなると財政出動として減税や公共事業を行ってきたため、結果的に770兆円を超える債務が積み上がってしまっている。今後の少子・高齢化を見据えると、国民生活の安心・安全を確保する財源については、消費税見直し等のしっかりとした税制改革を行って税収を確保するのが筋である。そのためには、自らの受益と負担の関係への理解を深めることが重要である。埋蔵金活用や無駄削減は大いに進めるべきだが、これらの財源は一時的で不安定なものなので、過去の債務の返済に充てることが原則である。

2.所得税の復権

所得税はどこの国の税制においても中核的な役割を果たしているが、日本のGDPに対する個人所得税の負担率は欧米に比べて低い。日本の所得税の最高税率は国際的な水準だが、さまざまな所得控除によって課税ベースが狭くなっている。例えば、配偶者控除制度ができた60年前は専業主婦が多かったが、今は共働きの世帯数が増加して、環境が変化している。現在の各種控除を見直して基礎控除に集約すべきである。
また、金融所得に対しては一体的な課税を行い、二元的所得税としていくことが最重要課題といえる。

3.間接税改革の方向

スウェーデン、デンマークでは消費税率が25%と世界の中でも最高の税率だが、それが高福祉の源泉となっているから国民は納得して負担している。欧州主要国では消費税率はおおむね20%が標準となっている。日本の消費税率は国際的に低い水準であり、今後上げざるを得ないだろう。消費税率が二ケタ税率になった際には、軽減税率を検討する必要が出てくるだろう。
揮発油税の一般財源化は、諸外国でも今日普及している。環境問題を踏まえると、税率を極端に下げるべきではなく、環境税へ組み替えていくことも一案であろう。
また、最近はたばこが注目を集めている。酒やたばこにかかる税は健康増進のための sin tax (罪なる税)としてペナルティー的に扱って良いと国際的に認められている。ただ、「たばこ税を上げるから消費税率の引き上げは不要」というのは議論のすり替えであり、たばこ税と消費税は分けて議論すべきである。

4.その他の改革

国際的には日本と米国とドイツの法人税率が高いが、ドイツは2008年から税率を引き下げ、米国も早晩税率を引き下げると考えられるので、日本だけが法人実効税率40%を維持し続けるのは難しい。今後は法人税を国の基幹税として位置付けることは困難となろう。
相続税は、現在100人中4人程度しか課税されておらず、基礎控除を見直して課税ベースを広げ、世代が変わった時には、社会に対して一部を還元することがあっても良いと思われる。

5.今後の課題

日本は欧米に比べて国民の租税に対する義務感が薄い。日本の初等教育の教科書には税金に関する記述がほとんどない。一方、欧米のテキストには「市民・国民としての最低限の義務は、納税者としての義務を果たすことだ」とはっきりと書いてある。受益と負担を意識し、また選挙で問うていくためにも、租税教育が重要な役割を持つ。

【経済第二本部税制・会計担当】
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