日本経団連タイムス No.2914 (2008年7月24日)

「アジアにおいて求められる人材マネジメント」発表

−企業競争力強化と働きがい両立へ


日本経団連は15日、報告書「アジアにおいて求められる人材マネジメント〜働きがいのある企業であるために」を発表した。同報告書は、グローバル展開を活発に行っている企業など、約40社で構成される国際労働委員会(立石信雄委員長)が、アジアでの厳しい競争を勝ち抜くためには、ホワイトカラーを中心とした現地社員について、どのようなマネジメントが求められるかを検討し、まとめたもの。企業競争力強化と、社員の働きがいを満たすという両方の視点から、付属の企業事例集とあわせて、企業と社員がWin‐Winの関係となる人材マネジメントの方向性を提起している。概要は次のとおり。

課題改善へ8方策提起

日本企業は、アジア諸国に積極的に進出しているが、賃金水準等で欧米企業に対して競争力が不足していることなどが原因となって、現地の高度人材の定着・確保に苦労している。また現地社員は、日本企業に対し、昇進スピードが遅い、仕事を任せないなどと指摘し、必ずしも仕事に満足してはいないことがうかがえる。日本企業はこのような現地社員の不満を解消するのみならず、働きがいのある企業となって、アジアでの競争力強化を図る必要がある。

こうした課題を改善し、働きがいのある企業であるために8つの方策に取り組むことが必要である。

その第1は、「企業理念の明示」である。現地社員の経営への参加意識や当事者意識を高めるために、自社の理念などを多言語で明文化し、一人ひとりに配布することが重要と考えられる。

第2から第5までは、具体的な人事施策となっており、そのうち第2は、「円滑なコミュニケーション」である。経営者自らが積極的に発信し、コミュニケーションを行ったり、社員満足度調査等、社員の声を聞くチャンネルを確保することなどが求められる。

第3に、「的確な業績評価と処遇」が挙げられる。現地の人材情報を継続的にモニターできる体制をつくり、その上で人材価値を特定し、的確な業績評価と処遇を行うためのパフォーマンス・マネジメントを整備することが必要である。

第4は、「発展空間の確保・提示」である。挑戦しがいのある面白い仕事や自分の成長を実感できる場を提供し、その企業の中でステップアップしていきたいと思える環境をつくることが求められる。

そして第5には、OJT、Off‐JT、本社での研修等を組み合わせた「積極的な人材育成」に取り組むことである。育成した人材の流失リスクはあるが、人材定着のためには育成施策が不可欠であると考えられる。

第6は、「社会的責任の実践」である。第2から第5の人事施策が企業の中での対応であるのに対して、これは企業の外のさまざまなステークホルダーへの働きかけであり、それらから高い評価を得られることで社員の誇りにつながる。

第7と第8として、これまでの施策を有効に機能させるための支援策も欠かせない。第7は「駐在員・派遣者の管理能力向上」のため、着任から帰任までを一貫してフォローする仕組みをつくることである。

最後に第8として、「地域・グループとしての対応」である。これは地域単位やグループ企業を含んだ人事ネットワークを構築し、情報交換を行って、それをベースにさまざまな人事施策を検討することである。

【労政第二本部国際労働担当】
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