日本経団連タイムス No.2917 (2008年8月14日)

インサイダー規制ほか金商法と上場企業法制上の諸問題で意見を交換

−金融制度委員会資本市場部会


日本経団連は7月30日、東京・大手町の経団連会館で金融制度委員会資本市場部会(武井優部会長)を開催した。同部会は、武井東京電力常務取締役が7月1日に部会長に就任してから初めて開かれる会合であり、西村あさひ法律事務所の武井一浩弁護士を招き、インサイダー規制ほか金融商品取引法(以下、金商法)と上場企業法制上の諸問題につき説明を聴取するとともに意見交換を行った。武井弁護士の説明は以下のとおり。

インサイダー規制は、昭和63年の制定以来20年が経過したが、抜本的改正はなされてきていない。金庫株解禁や持株会社・連結経営といった経営・資本戦略の変化、課徴金の導入など、取り巻く環境は様変わりしている。欧米でも何をインサイダー規制で罰すべきなのかの議論は常に続いており、日本も規制内容の国際的均衡を意識して、制度を不断に見直していく必要がある。

現行のインサイダー規制は、米国等のような行為の悪質性を要件とする実質主義とは異なり、違法なものを法律の構成要件で書き切る形式主義が採用されている。刑事罰では起訴便宜主義が働くが、課徴金の時代となり、構成要件に該当すれば原則として即アウトとなる。「儲けよう」といった利欲性やインサイダー情報を「利用した」ことも構成要件となっていない。それだけに日本の制度では、構成要件が真に罰すべきインサイダー取引を過不足なく規定しているのか、常に検証される必要がある。金商法は公法なので、企業がその行動を決定するにあたって「金商法に違反しないこと」はまず先にありきとなる。摘発事案も増加し、企業現場の順法意識は確実に高まっている。

他方で、過度の投資家保護によって、上場企業の正当な経営・資本戦略の萎縮を招かないことも重要である。現行法では、「アウト」となる領域は包括規定が置かれ広がっているが、「セーフ」となる領域は基本的に個別に政令で書かれる必要がある。こうした法制で過剰規制を防ぐには、政令を適時に頻繁に改正することが重要となろう。セーフの領域をプリンシプルベースによっても規定して解釈に委ねる余地を設けることも考えられる。

セーフ領域の個別の喫緊の課題としては、(1)軽微基準の連結ベースへの拡大(2)信託等で分離した自社株買いのセーフハーバーの確認(3)「知る前計画」や役員・従業員持株会の適用除外の拡大――などがある。5%超買付重要事実のインサイダー規制についても、買付者が5%超の買付けを行う決定をしたのか否かが部外から正確に判定できないので、法が準備している防戦買いは事実上行えないなど、買収者と対象会社との均衡が図られていない状態になっている。

このほか、日本では一定の買収行為に公開買付け(TOB)を強制していながら、TOBに先立つ買収監査で判明した事実が公表されるまでTOBをそもそも開始できないのかという論点がある。結論は解釈論次第だが、同じく強制公開買付制度を採る欧州では、インサイダー規制に一定の適用除外がある。日本のインサイダー規制も、主要国の法制も参考に、資本市場のグローバル化の中で国際的規制レベルから「過も不足もない」内容であることが常に意識されるべきである。

【経済第二本部経済法制担当】
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