日本経団連タイムス No.2928 (2008年11月13日)

米国大統領選挙を振り返って

−オバマ政権の行方と日本の対応


4日に投開票が行われた米国大統領選挙は、同日午後11時過ぎに270名の選挙人を確保したオバマ候補の圧倒的かつ歴史的勝利が判明した。

激戦州とみられたフロリダ、ペンシルベニア、オハイオ、バージニアの各州をオバマ候補が制し、選挙直後の時点で、獲得票数でも、オバマ候補52%、マケイン候補46%と大きな差がついた。予想どおりオバマ候補は、アフリカ系米国人の95%、ヒスパニック系米国人の66%の支持を得た。以下、男性票がオバマ候補49%対マケイン候補48%、女性票が56%対43%、初回投票者票では69%対30%と、圧倒的強みを見せた。

この背景には、第1にブッシュ政権への批判がある。イラク戦争、グローバリゼーションの進展と所得格差の拡大、さらには昨今の金融危機に対する不安と不満が現政権批判となり、「変革」を訴えるオバマ候補を大統領に押し上げ、結果的に人種の壁も打ち破ったとみられている。

第2にオバマ候補が、資金、メッセージ(スピーチ能力)、チーム管理の面で、完璧な選挙キャンペーンを行ったとの指摘がある。特に、インターネットを駆使した資金・ヒト集めは、選挙キャンペーンのあり方を変えたと言っても良い。

第3に選挙戦の異例な長さがある。その中で、マケイン候補は一時撤退を噂され、オバマ候補も、経験不足などからクリントン候補に対し劣勢なときもあった。両者が勢力を挽回し党指名候補になる過程において、現政権への批判は認識しつつもあくまで共和党の伝統的価値観を守ろうとするマケイン候補と、ひたすら「変革」を訴えるオバマ候補との対決という構図が明確になった。米国民が、長い選挙キャンペーンを通じて、迷いながらも「変革」へのチャレンジを選択したということもできる。

オバマ大統領は、米国をどう「変革」するのか。

まず問われるのは金融危機への対応である。中低所得層への減税を含む税制改革、雇用対策としてのインフラ整備、国内雇用を増やす企業への優遇策、クリーン・エネルギー促進などの景気対策、金融部門への監督強化、さらには中長期的課題であるヘルスケア改革などは、大きな政府をイメージさせる。しかし、オバマ候補は、「小さな政府」でも「大きな政府」でもなく、「スマートな政府」を追求すると言っている。

外交分野では、イラク戦争の終結や対話重視の姿勢が目立っている。しかし実際には、バイデン副大統領の経験も生かしながら、アフガン情勢、イランや北朝鮮の核問題、テロの脅威、ロシアや中国との関係などの諸課題に慎重に対応するとみられる。

日本との関係については、日本との同盟関係を真のグローバル・パートナーシップに転換していくべきとの意見を表明しており、金融危機対応や地球環境分野での協力が期待される。

選挙キャンペーンにおけるオバマ候補の言動を見る限り、プラグマティックな面が強く、「民主党だから大きな政府で保護主義化する」と短絡的に考えることはできない。しかし、国民の期待は「非現実的」に高まっており、それにすべて応えていたら大きな政府にならざるを得ない。また、米国経済がさらに悪化し、生産調整、雇用調整が進むようなことになると、米国が再び保護主義化するとの懸念は根強い。オバマ大統領が米国をどうリードし、米国民がそれについて行けるかどうかが問われている中、日本の協力は重要であり、問題の発生を予見し政治問題化を防ぐ、予防的コミュニケーションの強化が特に必要となっている。

【日本経団連米国事務所】
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