日本経団連タイムス No.2932 (2008年12月15日)

中小企業の課題と方向性聴く

−長谷川・中小企業庁長官から/中小企業委員会


日本経団連の中小企業委員会(澤部肇委員長)は4日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、経済産業省中小企業庁の長谷川榮一長官から「わが国における中小企業の課題と今後の方向性」をテーマに講演を聴くとともに、意見交換を行った。長谷川長官の講演概要は以下のとおり。

1.中小企業をめぐる状況について

中小企業をめぐる状況は非常に厳しい。象徴的なものとして、自動車の生産が今年に入って減少傾向にあることが挙げられる。日本の自動車メーカーが強い理由のひとつには、部品や素材といった協力産業全体のネットワークがよくできていることがあり、裾野の広い自動車産業の不振は中小企業にとって非常に由々しき問題である。
また、原油・資源価格の高騰は大きな問題であったと改めて認識している。原油価格の上昇に伴い、わが国の原油輸入額は増大を続け、2004年度は6.4兆円であったものが、07年度には13.7兆円となった。08年度は上半期だけで9.3兆円となっており、日本経済全体にとって大きな重荷となったことがわかる。
現在の難局を乗り越えるにあたっては、原油・資源価格の高騰がヒントになると考えている。資源小国のわが国にとって、少ないエネルギー・資源の利用(=低コスト)で、高い付加価値を生み出すことが不可欠であり、省エネ・新エネ設備投資の促進が重要である。

2.今後の中小企業政策について

今後の中小企業政策においては、3つのサイクルを同時に回していく必要がある。
一点目は倒産の防止である。資金繰り対策として10月31日に緊急保証制度をスタートした。この緊急保証の枠を6兆円から20兆円にまで拡大することが「生活対策」の中で決定している。下請企業対策としては、現在のところ法改正などは検討していないが、下請代金支払遅延等防止法の厳格な適用を行っていくこととしている。また、素形材・自動車など10業種については、下請適正取引ガイドラインを作成し、下請事業者と親事業者間での理想的な取引(ベストプラクティス)を示し、両者のWin‐Winの関係づくりを進めている。
二点目は企業体質の強化である。具体的な施策として、今年10月1日に遡って適用が開始されることとなっている中小企業の事業承継税制がある。経済産業大臣によって計画的な承継であると認められた場合に、中小企業の後継ぎが相続する自社株式の80%について、事業を続ける限り相続税の納入猶予を適用する。中小企業の存続が従業員の生活や地域経済を支え、国益となることが期待されている。
三点目は需要の拡大である。中小企業庁は、減税や財政支出といったマクロで直接的な施策をとることはないので、輸出促進や地域と一体となった商店街活性化などに取り組んでいる。
今後、経営者が考えなければならないことは、企業規模の大小にかかわらず、現在の下降局面をいかに乗り切るかである。同時に、その間にコスト削減などを進め、回復局面となったときに、飛躍するための準備を進めていかなければならない。

【労政第一本部企画担当】
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