日本経団連タイムス No.2941 (2009年3月5日)

第8回社史フォーラム開催

−社史編纂の技法など学ぶ


日本経団連は1月29日、東京・大手町の経団連会館で「第8回社史フォーラム」を開催、全国から社史編纂担当者など約60名が参加し、社史編纂の実際例、社史編纂の技法や留意点などについて学んだ。

◆ 立山科学グループ50周年社史制作委員長・立山システム研究所社長=水口勝史氏

同フォーラムでは、はじめに「『常に半歩先へ‐立山科学グループ五十年のあゆみ』の企画から刊行まで」と題し、立山科学グループ50周年社史制作委員長・立山システム研究所社長の水口勝史氏が講演を行った。水口氏は、会社創業50年を機に社史を制作するにあたり、(1)創業から現在までの50年の会社の歴史を記録として残す(2)ただ与えられる社史ではなく、全社活動の中から生み出されるものをねらう(3)自分自身が歴史を学んでいくことで次代の経営リーダーとして成長することをめざす――を求めたと説明。社史のコンセプトとしては、「立山科学の過去・現在・未来を映し出す」「将来の経営テキストブックになることをめざす」「特定の個人・団体、場所・時代に固執するものとしない」の3つを掲げたほか、社内に制作委員会を組織化して取り組むこと、読者対象のほとんどを社内限定にするよう絞り込むことを前提にしたと述べた。
ワーキング・グループ「社史編集分科会」の活動については、グループリーダーの下、メンバーを過去編、現在編、未来編担当者に分け、過去編担当者は資料捜索のため、職場倉庫をくまなく調べたほか、OBや社外への情報資料提供呼びかけ、沿革表の作成、会長インタビューの実施などを行ったこと、現在編担当者は科学グループ合同座談会、マシングループ合同座談会や各事業体責任者への個別取材を行ったこと、未来編担当者は10年後、30年後の職場・グループの理想の姿などについてのアンケート等を実施したことを紹介。作業にあたっては過去に出席した日本経団連社史フォーラムで学んだ、(1)添付資料(経営資料)こそ重要に扱う(2)記述文章は裏付けを取っていく(3)客観的事実を関連付けて列記している社史ほど価値が高い――の3点を念頭に置くようにしたと述べた。
社史制作から学んだこととして水口氏は、まず具体的成果について、(1)創業以来初めて会社資料としての社史を創刊することができた(2)新しい社員などが会社の歴史を学ぶための社内教育用の教材ができた(3)制作過程を通して、海外を含めたグループの結束力を高める一助となった――の諸点を挙げる一方、集められた貴重な資料を今後どのように活用させていくかの課題が残されたなどと述べた。
また自分が学んだことについて水口氏は、「創業者から現会長までの流れを内部資料に基づいて明確にしてきて、そのことを学んだ。一見してある日突然に降って湧いたように起きた事象についても、実は脈々と流れている流れの中から発生していることを改めて学ぶことができた」と振り返った上で、(1)創業者の存在が自分の中で、伝説的なものから身近なものへ変化した(2)歴史は繰り返す。会社の歴史そのものが変化の歴史であること。そのためにもリーダーは常に、中・長期的な視点を持つことが大切である――などの点が強く印象に残ったと語った。
なお立山科学グループは、社史DVDも作成している。

◆ パナソニック社史室室長・松下幸之助歴史館館長=富田雄二氏

続いてパナソニック社史室室長・松下幸之助歴史館館長の富田雄二氏は講演「経営理念の伝承を担う社史発信」の中で、常設機関である社史室の役割と機能や経営に役立つ社史発信活動について説明した。この中で富田氏はパナソニック社史室が1976年に創業60周年を迎えるにあたり、社長通達で社長直下に恒久的部門として設置されたこと、その使命と役割は、(1)創業者事業観の探求と、創業者精神の社内外への周知(2)社史に関するあらゆる資料の保存管理の徹底(3)社史の編纂――であることを紹介。恒久的部門として設置されているのは一般的に珍しいケースだろうと述べた。さらに、パナソニックでは社史の編集よりも発信を重視していることを指摘した。
また、社史室には膨大な資料が保管されており、それらはデジタルアーカイブ化され、画像データとしてキーワード検索などができ、遠隔地からでも利用できること、例えば創業者関係で画像が1万点あり、商品は画像として1200点あること、社内各部門に24時間公開していることを紹介した。
富田氏はさらに、パナソニックの経営理念を発信するものには、社史のほかに松下幸之助歴史館で実施する特別展があることを強調、この2つで創業者の経営理念の伝承を図っていると述べた。

◆ 元松下電器産業社史室室長=加藤久男氏

続いて元社史室室長の加藤久男氏が、同社90周年に、直近の30年間(1978〜2007年)についてまとめた「松下電器 変革の三十年」の編纂にあたった経験を語った。加藤氏はまず、パナソニックでは、社史に対して、(1)「ローマは1日にしてならず」‐物事の背景、道程を大切にしたい(2)成果は大事だが、同時に成果を生むまでの過程も、もっと重視したい。そうすれば、謙虚さが生まれ、軽率な判断も避けられる(3)特に、管理監督者は、仕事の知識に加え、会社の歴史についても深い理解を持ってほしい――という基本的な考え方を持っていることを説明した。直近の30年史にした理由として、既に創業から60年間の社史記述があること、この30年の間に「家電の松下から総合エレクトロニクスメーカーへ」の構造改革が行われたことを挙げた。その上で、「既刊年史の仕様を踏襲する」「30年間の歴代の社長が何をめざして経営を行ったかを記録する(社長ごとに章分けし、創業者と歴代社長の名前以外は出さない)」「2008年5月5日発刊を必須要件として、逆算してスケジューリングを行った」「構造改革の30年、VHS方式VTRによる最高利益の計上と、史上初の赤字計上を記録したまさに千変万化の30年をいかにして読み手に伝えるかを最大のポイントとする」「外部の業者に専門家として社史としての体裁・全体まとめを依頼する」「原稿は資料ベースに書き上げ、問い合わせに際しては資料の提示を可能とした」「各章の頭に章を紹介する概況の節を設けた」「社史室の資料、毎年作成する年表・年度史、社内時報を有力な資料とした」「作業者に30年全体の流れの概要を書いたものを配布し、それを共有した」「最後まで粘るほど内容が良くなった」などを編纂の基本的考え方・手法としたことを紹介した。
最後に加藤氏は、海外事業所に経営理念を伝えるための各国語版DVD社史作成に取り組んでいると語った。
立山科学グループもパナソニックも、「会社の存在を伝えたい」「創業者の哲学を後世に残したい」という意思が明確で、社史をつくる重要な意図、換言すれば“社史の哲学”を語った。

◆ 東京大学大学院経済学研究科教授=武田晴人氏

フォーラムの最後には東京大学大学院経済学研究科教授の武田晴人氏が「社史の企画と執筆‐その工夫と留意点」と題し、社史づくりのノウハウを流れに沿って解説した。武田氏は、(1)最初にやることは何か(2)どんな社史をつくるか(3)客観的に書くとはどういうことか――について説明。このうち「最初にやること」は、人集め、情報集め、資料集めであり、経験者の話を聞いたり、外部の知恵を借りるのが賢い方法であると述べた。
資料集めについては、(1)資料は現場に自分で行って探し、人頼みにしない(2)発見した資料には保存の措置を講じる(3)収穫のないことに慣れる――必要があることを指摘。資料整理には手間をかけるべきではなく、分類などあらかじめ詳細に考えるのは無駄になるので、表作成ソフトなどを利用して、あとからいくらでもつくり直せる目録をつくればよいと説明した。
どんな社史をつくるかについては、網羅性、話題性、ストーリー性を持つものをつくるべきことを強調。また、構想を決めた段階で社史の多くの部分が決まってしまうので、構想を練る前には簡単な年表と連続的なデータを用意し、大きな流れを把握する必要があると指摘した。
歴史的評価に耐え得る客観的な社史を書くということについては、(1)資料に即して書くこと(2)その上で論理的に、また時間の因果関係において矛盾していないこと(3)だれからも文句の出ない記述が必ずしも客観的であるとは言えないということを理解すること(4)資料に基づきまず正確さを第一とすること(5)わかりやすさを心がけ、仲間内だけのことばの使用などを避けること(6)反証可能性が担保されていること――などが必要であると述べ、客観性は、誠実な書き手には自ずとついてくると指摘した。

【社会第一本部情報メディア担当】
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