日本経団連タイムス No.2942 (2009年3月12日)

労災認定の考え方の変化などを説明

−労働法規委員会労働安全衛生部会


日本経団連は2月25日、東京・大手町の経団連会館で、労働法規委員会労働安全衛生部会(清川浩男部会長)を4ワーキング・グループと合同で開催した。

部会の前半は、弁護士の丸尾拓養氏が、「過労死・精神疾患に関する安全配慮義務・労災認定等に関する考え方の最近の変化」をテーマに、講演を行った。

丸尾氏は冒頭、最近の労災補償状況について、脳血管疾患および虚血性心疾患等は、2002年に認定件数、認定率とも急伸したが、それ以降はなだらかな増加傾向にとどまっている、また、精神障害等については、その認定率は20%程度であると指摘した。

次に、労災認定の最近の変化について、過労死は裁判で不支給認定が覆される傾向にあり、精神疾患についてはパワーハラスメントに関する事例が増加し、長時間労働でなくても認定されるケースが増加していると述べた。

続いて、「民事損害賠償の最近の変化」について、安全配慮義務の基本的な考え方を説明。電通事件(最高裁平12・3・24)を例に挙げ、安全配慮義務は従来、業務の内容自体に危険性があるケースに認められていたが、今後は、司法、裁判所が何を求めているのかを考察することが重要であるとした。

電通事件において最高裁は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を、業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」としたが、丸尾氏はまさにその「権限の行使」こそが安全配慮義務の本質であり、その義務は法律によって企業に課されるものではなく、実質的には「人事権を適切に行使すること」に尽きると述べた。

その後、立正佼成会事件(東京高裁平20・10・22)、松本労働基準監督署長事件(東京高裁平20・5・22)等を取り上げて説明し、近年、労働基準監督署が出した労災の不支給認定が取り消される判決が増加傾向にあるが、その理由として裁判所が個別の事案で判断していることを挙げ、単純に行政の判断が追認される時代ではなくなってきているとした。

最後に、丸尾氏は企業の実務的対応として、過労死、精神疾患ともに、休日や睡眠時間をどう確保するかが何よりも重要であり、どこにリスクがあるかを理解した上で、優先順位を付けリスクをできる限り減らすようなマネジメントをしていくことに尽きる、と強調した。

部会の後半は、昨年12月10日に開催された同部会において審議され、部会長に一任された「労災保険料率の改定」「足場からの墜落防止措置に関する規則の一部改正」に関し、その見直しの経緯と今後の動きについて、事務局が説明。また、1月22日に開催された労働政策審議会安全衛生分科会において諮問、答申された結核健康診断の労働安全衛生規則の一部改正、石綿障害予防規則の一部改正(事前調査結果の掲示の義務付け、隔離措置の必要な作業の拡充など)を事務局から報告した。

【労政第二本部安全・衛生担当】
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