日本経団連タイムス No.2950 (2009年5月14日)

金融危機後の米国および世界経済に関するセミナーを開催

−キミット前米国財務副長官招き


日本経団連は4月23日、東京・大手町の経団連会館で、ブッシュ政権での財務副長官として、対米外国投資委員会(CFIUS)の活動をはじめ、米国の外国投資政策や金融・財政政策の立案に中心的な役割を果たしたロバート・キミット氏を招き、金融危機後の米国および世界経済に関するセミナーを開催した。司会を務めた長谷川閑史アメリカ委員長をはじめ、70名が出席した。

冒頭、キミット氏は、今回のアメリカを震源地とする金融危機の根本的な原因として、過去20年間、世界中の投資家が金融市場の中心的原則であるリスクとリターンのリスクの部分に対して無頓着であったことを強調した。特に米国の住宅市場において、リスクとリターンの不均衡は最も顕著であったことを指摘し、2007年の夏に、このような米国の脆弱な金融体制が浮き彫りになったと指摘。その結果、融資基準の緩和と住宅価格高騰に終止符が打たれ、投資家は大きな損失を被り、住宅市場のみならず、あらゆる資産分野においてリスクとリターンの不均衡な関係を見直さざるを得なくなったと説明した。

今回の金融危機によって得られた重要な教訓の一つとして、キミット氏は、不安定要素は銀行以外の金融機関での発生もあり得ること、また現状のアメリカの銀行規制システムでは銀行以外で発生したリスクに対処する方法がなかったことを指摘した。さらに、この教訓を活かして、ガイトナー財務長官が、現在、構造上のリスクへの対応、消費者と投資家の保護、規制構造の穴埋め、国際協調の4分野を対象とする包括的な規制改革の枠組みを立案中であること、また構造上のリスクへの対応については、リスクに対して責任がとれる単一の組織を設立することや、金融システムの安定性にリスクを与える可能性がある金融機関に対して手堅い資本要件を課し、実行することの重要性が強調されていることを説明した。

また、金融危機後の景気回復に向けた対策として、キミット氏は、現在、保護主義的措置をとる国が増えていることを踏まえ、景気回復をより強固で持続的なものにするために、日米両国が、あらゆる場において保護主義に対抗し自由貿易を擁護するリーダーにならなければいけないと指摘した。

さらに、世界の金融構造も変革の時を迎えていると述べ、(1)世界銀行とIMFの構造改革の必要性(2)G20の重要性(3)金融安定化フォーラムの重要性――を説明した。G20については、今後その重要性がますます高まると述べ、ASEAN、GCC(湾岸協力会議)、Council of the Americas、アフリカ連合といった地域機構も参画すべきとの見解を示した。また、2010年には日本、11年にはアメリカにAPEC議長国の順番が回ってくることから、APECの活動も重要になってくることを強調し、将来の世界金融構造は、G7を中核とするG20が中心的な役割を果たし、そこからIMF、世界銀行、OECD、世界金融安定化フォーラムといった重要な地域機構につながっていくものになるだろうと説明した。

最後に、キミット氏は今後、日米関係を強化するための手段として、(1)日米関係は強力な金融、商業的関係と政治的、安全保障的関係に基づいていることを認識すること(2)両国が金融および商業面で成功するためには、自由貿易と開放的な投資交流に対して相互にコミットする必要があること(3)米国は日本からの対米投資を積極的に拡大するとともに、日本も対日外国投資を倍増させる必要があること(4)日米両国の民間部門が、政府による政策を補完するために積極的な役割を果たすべきこと――の4点を指摘した。

【国際経済本部】
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