日本経団連タイムス No.2951 (2009年5月21日)

「高齢労働社会に対する労働安全衛生対策」をテーマに講演聴く

−高年齢労働者の安全衛生対策ワーキング・グループ


日本経団連は14日、東京・大手町の経団連会館で、高年齢労働者の安全衛生対策ワーキング・グループ(高橋信雄座長)を開催した。

今般、高年齢労働者の雇用機会の増大、活用の広がりなどに伴い、その安全と健康の確保が重要となっている。同ワーキング・グループでは、今後ますます重要とされる高年齢労働者の安全衛生対策について、その就業に関する判断基準やマニュアル等の策定、企業の具体的な取り組みなどについての検討を行っている。

今回は、この問題の専門家である産業医科大学人間工学研究室の神代雅晴教授から、「高齢労働社会に対する労働安全衛生対策」をテーマに、講演を聴取し、その後意見交換を行った。

神代教授は冒頭、少子高齢化の進行によって、高年齢労働力の参加を図らなければ社会・経済活動の維持が難しくなると述べるとともに、高齢化社会への対応として、個々人の基本的な労働能力(ワークアビリティ)と職務上求められる能力のミスマッチを防ぐことが重要であると指摘した。また、労働能力を外部市場で雇用される能力(エンプロイアビリティ)にまで発展させることにより、雇用機会の多様化が促進され、雇用の場が拡大されることをつけ加えた。

次に、高年齢労働者に対応した産業保健戦略については、身体的能力、社会生活機能、精神的能力が充実し、健康であることを基本に、そこに知識や経験、技能などを加味し、仕事の成果が評価できる高年齢労働者をつくり上げていく2段階の工程が必要であると述べた。

具体的には、まず第1段階として、健康の確保、体力年齢の若返りを図る個人レベルでの戦略がある。特に個人差が大きい高年齢労働者に対しては、暦年齢ではなく「機能年齢」をベースにした指標で評価していくことが望ましい。その後、第2段階として、職務再設計を含む職場改善活動、支援機器・道具などの開発をはじめとした職場レベルでの戦略。第3段階として、高年齢労働者の能力をいかに客観的に評価できるか検討し、各企業の成功事例を共有していく企業レベルでの戦略。最後に、第4段階は、企業で実施した戦略の標準化を図るための国・地方行政等の戦略がある。

この分野の先進国であるフィンランドでは、1980年代に高年齢労働者を意識して指標(WAI=Work Ability Index)をつくり、それを国家プロジェクトとして導入した。WAIは、職務内容と職業能力のミスマッチを防ぐため、現在の労働適応能力や精神的健康度などの設問に応じて得点を付し、それによって改善目標が設定されるものになっている。

現在、欧州で広く普及し始めており、神代教授はこのWAIに、日本社会に合った独自の項目を追加した指標を作成することによって、個人、職場、企業が、それぞれのレベルに応じて改善目標を知ることができると述べた。さらに、労働能力の低下をもたらす要因として、ストレスの増大とモチベーションの低下が大きく影響し、何よりも本人の気持ちによるところが大きいと指摘した。

最後に、人的資源をいかにとらえるかが重要であり、健康と労働意欲をもとに直接的な職務能力の診断を行い、ミスマッチをなくすようにしていくことが重要であることを再度強調した。

【労働法制本部】
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