日本経団連タイムス No.2957 (2009年7月2日)

第98回ILO総会閉幕

−「グローバル・ジョブズ・パクト」など採択



第98回ILO総会(写真提供=ILO)

ILO(国際労働機関)の第98回総会が、6月3日から19日までスイス・ジュネーブで開催された。今回の総会は、経済危機下の厳しい雇用情勢に各国およびILOはどのように対応すべきか、を中心テーマに討議。各国元首を招いて雇用危機に関するサミットが開催され、また経済回復や雇用創出の政策を進める上で各国の参考となる「グローバル・ジョブズ・パクト」がまとめられた。このほか、HIV/AIDSに罹患した労働者の権利保護等について「勧告」の策定をめざす討議や、男女平等を促進するために求められる政策についての討議が行われた。討議結果の詳細については、ILO本部のホームページ(URL=http://www.ILO.org/global/lang--en/index.htm)を参照のこと。
主な討議結果は次のとおり。

■ 世界雇用危機に関するILOサミット

15日から17日に開催された雇用サミットには、ポーランド、フィンランド、ブラジル、フランス、アルゼンチンなどから9人の国家元首をはじめ、多数の副大統領、労働大臣、労使のリーダー等が参加し、世界的な雇用危機に対応するため各国および国際レベルで実施すべき政策などについて討議を行った。
ブラジルのルーラ大統領は、「2009年中に、世界で新たに5000万人の失業者が増えると予想される中、脆弱な人々や途上国への支援が欠かせない。危機対策は雇用問題を中心に据えるべきである」と述べた。また、フランスのサルコジ大統領は、「経済危機によって、経済、金融、社会、環境などの分野において、グローバル化の負の側面が顕在化している。金融市場の規制を含む、新たな理性的な世界秩序が求められる」と主張した。パネルディスカッションでは、雇用危機に対する、国内および国際レベルでの政策立案には政労使の参加が必要であることが強調され、またG20の協議等にILOが積極的に貢献していくべきことなどが提起された。

■ 財政委員会での予算審議

2010〜11年度のILOの予算として、08〜09年度予算からスイスフランベースで1.5%削減し、スイスフランと米ドルの為替レート変動を織り込んだ7億2672万米ドル(2年ベース)の予算が、ほぼ全会一致で可決された。日本の分担比率は、前回予算とほぼ同じ16.631%で、負担金額は1億2086万米ドル(2年ベース)となった。

■ 条約・勧告適用委員会の個別審査

批准した条約の適用が不十分なもののうち、特に問題と認識される25の個別案件について審査を行った。結社の自由に関するものが12件と約半数を占め、地域的にはアジア諸国に関するものが8件と最も多かった。日本に関する審査はなかった。
また、住民に対する軍事政権による強制労働が問題になっているミャンマーについて、特別セッションというかたちで討議が行われ、委員会はミャンマー政府に対し、新憲法の中に強制労働を禁止する規定を盛り込むよう要請した。

■ 技術議題の討議結果

○ 経済・金融危機下の雇用および社会政策とILOの対応(一般討議)

雇用の回復は経済の回復から数年遅れるといわれるが、現下の深刻な雇用情勢から早急な回復を図るために、各国に求められる政策対応などについて討議を行った。その結果、政労使のコンセンサスに基づき「グローバル・ジョブズ・パクト」を採択した。これは、政策の選択肢を示しており、各国が政策を進める上で役に立つ参考としての役割を果たし得る。
文書は、ILOが掲げているディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の実現という政策目標を、雇用危機への対策として、改めて具現化していこうとするものである。具体的には、(1)マクロ経済政策による需要喚起(2)持続可能な企業や質の高い職業紹介・訓練、積極的労働市場政策などを通じた雇用の維持・創出(3)失業給付など社会的保護の充実(4)労働条件引き下げの国際的な連鎖を防ぐための国際労働基準順守(5)政労使協調の強化(6)経済、社会、環境の持続可能性の観点から一貫性のある政策実施(7)自由貿易の堅持と保護主義的措置の回避――などを強調している。また、公正で持続可能なグローバル化をめざすために、金融部門改革、効率的な貿易や市場の促進などの面から、ILOと他の国連機関等との連携の必要性が謳われている。
4月のG20金融サミットにおいて、ILOは雇用創出や社会保護について、他の関係機関と協働して、これまでの行動や将来必要となる行動を評価することを求められた。グローバル・ジョブズ・パクトは、こうした付託に応えるための一歩である。

○ HIV/AIDSと仕事の世界(基準設定)

アフリカを中心に職場でのHIV/AIDS対策が喫緊の課題となっている。HIV/AIDSに罹患した労働者の権利保護や効果的な予防策などについて、「勧告」の策定をめざして討議を行った。
討議の結果、事務局作成の勧告案に対して、同勧告が適用される労働者の範囲を追加し、HIV/AIDSに罹患した労働者への差別防止に関する事項をより細かく規定した。また、HIV/AIDSなどの定義をWHOとともに今後再検証することになった。今回の討議を踏まえて来年再度討議を行い、勧告を完成させることになっている。

○ ディーセント・ワークの核心としての男女平等(一般討議)

労働における権利、雇用機会、賃金等の処遇、社会的保護等の面で、世界各国で男女の不平等が引き続き存在することから、求められる政策などについて討議を行い、報告書を取りまとめた。
報告書は、女性について、マクロ経済政策、積極的な労働市場政策や能力開発等を通じて雇用創出を進め、母性保護政策をはじめとする社会的保護を充実させることを強調している。また男女の同一報酬条約など、男女平等に関するILO条約の尊重を謳っている。

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ILO総会期間中の11日、アジア太平洋経営者団体連盟(CAPE)の代表者が、国際労働組合総連合アジア太平洋地域組織(ITUC‐AP)と定例懇談を行い、経済危機による失業者の増加に対する、アジア地域レベルでの対応について意見を交換した。

【国際協力本部】
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