日本経団連タイムス No.2958 (2009年7月9日)

経済広報センターがシンポジウム「労働市場の環境変化と日欧の対応」を開催



シンポジウムでのパネルディスカッション

日本経団連の関連組織である経済広報センター(御手洗冨士夫会長)は6月17日、東京・大手町の経団連会館でシンポジウム「労働市場の環境変化と日欧の対応」をベルリン日独センターおよびケルン経済研究所と共催で開催した。

基調講演では、日本経団連の鈴木正一郎雇用委員長とドイツ連邦雇用庁雇用研究所のヘルベルト・ブリュッカー教授が、日本とドイツの雇用情勢をそれぞれ説明した。

パネルディスカッションでは、メッセ・デュッセルドルフ・ジャパンのアンドレアス・メルケ社長がモデレーターを務め、国際基督教大学の八代尚宏教授、経営共創基盤の冨山和彦CEO、ケルン経済研究所のロルフ・クローカー理事が問題提起を行った後、ブリュッカー教授とコンサルタント会社のローランド・ベルガーのパートナーであるディルク・ファウベル氏が議論に加わり、双方の労働市場の現状と課題を比較するとともに、今後の企業や社会の対応について意見交換した。参加者は約160名。

■ 基調講演「世界経済危機と日欧労働市場へのインパクト」

鈴木雇用委員長は、わが国における経済危機の克服に向けた取り組みの状況について紹介し、喫緊の課題として、(1)雇用の創出(2)労働者の職業能力開発(3)労働市場におけるマッチング機能の強化(4)雇用のセーフティネットの強化――の4点に注力すべきことを強調した。

また、中長期的な課題として、労働力の多様化への対応が不可欠であり、労働者側と経営側のニーズを踏まえ、経済の持続的発展が可能となる労働・雇用政策のあり方を模索し、制度を再構築していく必要があると述べた。

ブリュッカー教授は、雇用対策には、過剰雇用を抱えている企業への助成金といった緊急対策、長期失業者向けの職業マッチングやその他の積極的労働市場対策といった構造対策などがあるが、マクロ経済のショックに対応するには不十分だと指摘した。

■ パネルディスカッションでの問題提起

八代教授は、現在が出生率低下と人口減少社会への転換期であり、過去の高成長期に成立した社会制度や労働慣行を、少子・高齢化社会に適応するものに改革することが急務であると主張した。

また、少子・高齢化社会に対応した雇用政策として、(1)年齢や性別にとらわれない社会の形成(2)日本的雇用慣行を保護する規制の見直し(3)1700万人の非正社員の多様な働き方の容認(4)ワーク・ライフ・バランスを通じた出生率の回復――などを提案した。

冨山CEOは、今後の人口構成を考えると、終身雇用・年功賃金は維持できないとした上で、旧来の雇用システムは、高学歴・中高年・男性・正社員のためのシステムであり、ここにメスを入れなければ改革はできないと述べた。しかしながら、日本では米国流のオープンな労働市場は現実的ではなく、働き方の多様化を進め、20代、30代の若者を組織に取り込み、帰属意識を持たせることで、社会の安定と生産性の向上を両立させていく必要があると発言した。

クローカー理事は、雇用機会増大に向けた取り組み、資格取得・技能向上のための教育・訓練、仕事と家庭の両立支援などを通じて、所得増大に向けて取り組むことの必要性を強調した。

■ パネルディスカッション概要

パネルディスカッションでは以下のような発言があった。

  1. (1)日本の場合、企業内教育(OJT)が中心であり、企業に正社員として就職しないと仕事に習熟することが難しい。非正社員や企業外の希望者にも教育の機会を与える必要があり、雇用対策として実施中の「ジョブカード制度」の推進が求められる。スキームとしては、資金は国が出すが、訓練は民間が行うというのが効率的かつ有効である。

  2. (2)大学のうち、ノーベル賞をねらうような学術的な研究を行うのは1割程度で十分であり、残りの9割は職業訓練に特化したプロフェッショナルスクールとすべきだ。大学は変わる必要がある。しかし、大学が変わるためには、企業が変わらなくてはならない。

  3. (3)不況期に新卒採用が大幅に抑制されるのは、企業にとっても社会にとっても問題である。そこで、国の費用で「インターンバウチャー」を発行し、就職希望者を各企業で試用し、その中から正式に採用するような仕組みを取り入れることを提案したい。そうすれば、卒業年次による採用のばらつきも緩和される。

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