日本経団連タイムス No.2959 (2009年7月16日)

第103回日本経団連労働法フォーラム

−総合テーマ「経済危機における労働関係法令の遵守」


日本経団連主催、経営法曹会議協賛による「第103回日本経団連労働法フォーラム」が2、3の両日、都内のホテルで開催され(前号既報)、(1)内定取り消し、一時帰休、有期労働者の中途解約・雇止め等「適正な人事管理のための法的留意点と実務対応」(2)派遣労働者や請負労働者の適正な労務管理、派遣・請負契約の解約、団体交渉申し入れへの対応等「外部労働力の活用における法的留意点と実務対応」――について検討を行った。

弁護士・鈴木里士 氏

報告1 弁護士・鈴木里士 氏
―「適正な人事管理のための法的留意点と実務対応」

【内定取り消し】

新規学卒者の採用内定取り消し件数の推移を見ると、2009年3月卒の内定取り消し件数が前年3月卒の94件から2083件に激増した。
判例上、採用内定は、解約権を留保した労働契約の成立と解される。採用内定の取り消し事由は、内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるものに限られる。

【入社時期の繰り下げ・労働条件の変更】

入社時期の繰り下げについては、採用内定者に自宅待機を命じた場合、使用者が一方的に休業させる場合と同様に考えられ、労働基準法26条の休業手当の支払いが必要となる。また、入社日を延期する場合も、使用者が契約内容であるところの入社日を一方的に変更することはできないため、休業手当の支払いが必要になる。

【休業(一時帰休)】

休業とは、労働契約上労働義務のある時間について労働をなし得なくなることと定義され、同じく雇用維持を目的とする緊急避難型のワークシェアリングとは、休日や労働時間などの労働条件に変更を来さない点で異なる。
休業期間中の兼業については、当該期間中も就業規則の服務規程の適用があり、兼業が禁止されていれば、会社の許可なく兼業することは認められない。兼業を認める場合は、兼業における労働時間の把握が困難となるため、労働者の健康管理に注意を要する。

【整理解雇】

整理解雇の4要素((1)人員削減の必要性(2)解雇回避の努力(3)人選の合理性(4)手続きの妥当性)は、あくまでも解雇権濫用に当たるかどうかを判断するための類型的な判断要素にすぎないため、その一つ一つを分断せずに全体的・総合的にとらえるべきである。
近時の裁判例によれば、人員削減の必要性については、企業の経営実態に立ち入った審査をすることを控え、基本的に使用者の経営判断を尊重する傾向にある。
また、整理解雇を回避するための具体的な措置としては、企業規模、従業員の構成、経営内容など事案ごとの事情を踏まえ、解雇回避の可能性や回避努力の有無などが判断される。解雇回避努力についての裁判例の傾向として、配転、任意退職の募集などの他の手段を試みず、いきなり整理解雇の手段に出た場合は、ほとんど例外なくその解雇は解雇権の濫用とされている。

【有期労働者の中途解約・雇止め】

08年10月から今年6月までの間に非正規労働者のうち解雇・雇止めの対象となっているのは約21万6千人である。
契約期間途中の解雇については、労働契約法17条1項により、期間の定めのない者の解雇よりも厳格な判断がなされる。
雇止めについては、有期労働契約は民法上、契約期間の満了により契約関係は当然に終了するが、実際には解雇権濫用法理が類推適用される場合がある。ただし、有期労働者に正社員の厳格な解雇の判断基準がそのまま適用されるわけではなく、また、雇止めの有効性の判断要素の充足度合いにより、求められる整理解雇の4要素の程度も異なってくる。

【高年齢者雇用制度の見直し】

高年齢者雇用安定法の改正によって企業は、(1)定年の引き上げ(2)継続雇用制度の導入(3)定年の定めの廃止――のいずれかの措置を講じなければならない。
継続雇用制度における雇止めについては解雇権濫用法理が類推適用される。正社員と比較した場合、正社員と同様の厳格な解雇権濫用法理が適用されると考えるべきではない。また、他の非正規社員との比較では雇用の実態に応じて優劣の判断がなされるべきである。

【希望・早期退職の募集】

希望・早期退職の募集は、正社員の雇用調整として、解雇を回避するための大きな役割を担っている。
退職勧奨は、雇用関係のある者に対し、雇用契約の合意解約の申し入れ、あるいは誘引という法律行為の性格を併せ持つ場合があるが、基本的には説得という事実行為になる。そのため、退職勧奨という行為のみで法律効果は生じない。
実務上の留意点としては、希望退職を募集するにあたり、募集人数、対象者、割増退職金などのインセンティブの総額・配分の検討といった事前準備や、不要なトラブルを回避するための正確な情報提供などが必要である。

弁護士・浅井 隆 氏

報告2 弁護士・浅井 隆 氏
―「外部労働力の活用における法的留意点と実務対応」

【派遣と請負の基本的な枠組みの違い】

派遣の基本的枠組みについては、派遣先は派遣労働者に対し指揮命令権を有しながらも雇用責任はなく、使用者としての責任も原則としてはないと解釈される。
一方、請負の基本的枠組みについては、発注企業は派遣契約と異なり、雇用責任や使用者責任が原則ないばかりか指揮命令権さえないと解釈される。
このように、外部労働力の活用にあたっては指揮命令権の所在について十分留意する必要がある。

【偽装請負問題とは】

本来、請負契約であれば発注企業は直接の指揮命令権を有しないにもかかわらず直接、請負労働者を指揮命令するなど、労働者派遣事業に該当するものを指す。偽装請負問題に対して、厚生労働省は06年に労働基準局長および職業安定局長名の通達により、その防止・解消強化に乗り出した。この通達はいわば、偽装請負問題に対する摘発の強化を宣言したものである。

【偽装請負への法的留意点】

偽装請負として摘発された場合、請負企業、発注企業ともに派遣法違反として責任追及されるほか、最近では発注企業と社外労働者との間に直接、黙示の労働契約の成立を認め、発注企業に雇用責任を負わせるという裁判例(松下プラズマディスプレイ(パスコ)事件・大阪高裁判決)も出ている。この中で、黙示の労働契約の成立要件として、(1)発注企業による指揮命令(2)賃金の決定にあたり発注企業が実質的に関与――という点が挙げられた。

【外部労働者の適正な労務管理における留意点】

1.派遣先による派遣労働者の適正な労務管理
  1. (1)労働保護法規の適用
    派遣先と派遣労働者との間には労働契約関係はないものの、派遣労働者を保護する観点から、一定の条文(派遣中の労働者に関する派遣元・派遣先の責任分担=厚労省作成)の適用がある。

  2. (2)派遣労働者の不正行為に対する派遣先の責任
    不正行為の発生が派遣先において予見できたか、また、予防措置・管理を講じていたかにより責任を負う場合がある。

  3. (3)派遣期間の管理
    政令で定められた26業務については派遣期間に制限はない。その他自由化業務については原則1年、例外として派遣先の労働者代表の意見を聞く手続きをとった場合は3年としている。
    また、期間が経過し、同一職場に新たな労働者を雇い入れる場合には直接雇用するように努める義務が発生する。

  4. (4)派遣先と派遣労働者との間の黙示の労働契約の成立の可能性
    「派遣元の独立性」「派遣元による募集・採用手続き」「派遣元による派遣労働者の服務管理」「派遣元による賃金の決定」「派遣元による終了通告」――が具備されていれば黙示の労働契約は成立しない。

2.請負発注者における留意点
  1. (1)請負労働者の労務管理
    発注者は請負労働者に対する労務管理については関与しない。

  2. (2)発注企業と請負労働者との間の黙示の労働契約の成立の可能性
    「請負会社の独立性」「請負会社による採用・人選の独自性」「請負会社の労務管理(指揮命令・出勤・教育等)」「請負会社による賃金の決定」――が具備されていれば黙示の労働契約は成立しない。

【外部労働者に対する派遣先・請負発注者の安全配慮義務・不法行為責任】

派遣先や請負発注者の管理する設備や工具等を用い、事実上の指揮命令下にあり、作業内容が他の従業員とほとんど同じ場合、つまり人的・物的に関与があれば特別な社会的接触関係があると認められ、安全配慮義務や不法行為責任が生ずる。

【派遣契約や請負契約の解約】

「派遣先、派遣元指針」(厚労省告示)の改正によって、派遣契約の中途解約にあたっては、派遣契約の締結段階で派遣先による中途解約が発生した場合に生ずる損害賠償について条項を設けることとされた。
期間満了の場合は派遣労働契約も終了となるため解約(雇止め)は有効となる。
請負契約の解約における請負のために採用された労働者との労働関係については、業務請負とその労働契約がリンクしている場合は、労働契約を終了してもやむを得ないと解釈される。

【労働法制本部】
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