日本経団連タイムス No.2972 (2009年10月29日)

EUの雇用政策と生活保障制度の動向について聞く

−社会保障委員会企画部会


日本経団連の社会保障委員会企画部会(渡邉光一郎部会長)は9日、東京・大手町の経団連会館で会合を開き、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎統括研究員から、EUの雇用政策と生活保障制度の動向について説明を聞いた後、意見交換を行った。

■ 濱口研究員説明

1990年代以降、EUの社会保障政策は雇用政策と表裏一体で議論が展開している。政策展開の大きな方向性としては、従来の所得移転型・資源再分配型から、機会配分型・社会参加型のシステムへの転換が志向されている。つまり、これまでの福祉国家像では、弱者救済・労働者保護が中心にあったが、市民権的な観点のもと、仕事を通じた社会参加型の新たな福祉国家を目指す方向である。

EUの雇用戦略の最大の眼目は、就業率の向上にある。さらに、福祉を削減し労働市場に追い立てる政策手法は取らず、「仕事の質」を横断的目標とし、やりがいのある良い仕事を提示していくことを重視している。仕事の質の向上により失業や非就業への流出を減らし、流入を増やして就業率を引き上げるという、仕事の量と質の両立を目指すものである。

また、EUで同時期に打ち出した社会保護戦略においては、福祉による金銭給付のみでは貧困問題は解決せず、「社会的排除」の解消に向け、社会の二極化、分断化にこそ取り組むべきとの考え方が有力になった。その際の対応のカギは、質の高い雇用にあり、社会の主流(労働市場)から排除された人々を統合するべく、所得保障と職業訓練とをリンクする仕組みづくりが検討され、各国で対応が進んでいる。また、社会の二極化の解消には、雇用問題を超えて住宅、医療、文化、家族といった広い政策分野への対応が必要であるとも指摘されている。

EUでは、従来から若年失業者が雇用問題の中心にあり、手厚い所得保障があるものの、いったん福祉の世界に安住すると抜け出せない「福祉の罠」という問題がある。これに対し、日本では、90年代初めから若者が非正規労働者として就労するなかで矛盾が生じてきた。

EUは働かない人をいかに働かせるかが問題であり、日本は働いていても、その働き方およびセーフティーネットが不適切なことが問題である。検討の際には、EUと日本の社会背景や雇用環境の違いをよく踏まえる必要がある。今後、日本においては、将来のキャリア展望を見せつつ、非正規就労からスキル向上を前提として高技能・高賃金の世界へ移行させるための施策が必要であり、雇用および社会保障の一体的な施策展開が期待される。

■ 意見交換

引き続いて行われた意見交換では、「派遣という働き方をどのように評価するか」との質問に対し、「本来は、キャリア形成につなげる手段にもなり得るシステムであり、冷静な議論が必要。ただし、低い労働条件を生み出すもととなるなら、改善策を検討すべき」との回答があった。

【経済政策本部】
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