日本経団連タイムス No.2973 (2009年11月5日)

「弱毒型新型インフルエンザの大流行と強毒型発生の危惧」

−田代・国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長から聞く/国民生活委員会


日本経団連の国民生活委員会(岡部正彦共同委員長、岡本圀衞共同委員長)は10月20日、東京・大手町の経団連会館で、田代眞人国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター長・WHOインフルエンザ協力センター長から、新型インフルエンザをめぐる対応と今後の課題について説明を聞いた。

田代センター長はまず、「弱毒性の新型インフルエンザは、形を変えて、ヒトの世界で数十年に一回の割合で大流行を繰り返している。これまでの流行はすべて弱毒型であり、呼吸器に限局したインフルエンザであったが、現在、発生が危惧されている強毒型鳥インフルエンザは、全身感染や多臓器不全を引き起こす、従来のインフルエンザとは異なる高致死率の新しい重症疾患である」と警告を発した。

こうした鳥由来の新型インフルエンザ(H5N1型)が出現した場合は、「現在の豚由来の新型インフルエンザ(H1N1型)とは異なり、すべての人に全く免疫がないため、季節性インフルエンザに比べ、甚大な健康被害が起こり、医療サービスをはじめ、社会機能の停滞や崩壊を招く懸念がある。特に、エネルギーや食糧供給、物流が停止した場合の影響は計り知れない」と説明し、対策の必要性を訴えた。

対策の目的として、(1)感染拡大を可能な限り抑制・平坦化し、健康被害を最小限にとどめること(2)社会・経済を破綻に至らせないこと――を挙げ、そのための対応戦略を「事前に医療対応体制の強化・底上げを行い、流行のピークを少しでも遅らせることで、医療の対応能力の範囲内にとどめること」と整理した。具体的には「行政のみでなく、国民一人ひとりの対応も含め、考えられるすべての対策を動員する必要がある。特に、発生前もしくは発生後早期に全国民へワクチンを接種し、重症化させないことが最重要」とワクチン対策の重要性を強調した。また、企業に対しても、「事業活動の崩壊を回避するためにも、計画的な事業の縮小や停止、回復を行うための事業継続計画の事前整備が必要」と事前準備が必須であることを強調した。なお、課題として、「公衆衛生的な介入による社会機能・経済活動への悪影響をどの程度にするかといった問題」や「事前に国民全員分のプレパンデミックワクチンを製造、備蓄しておくことと、新型ウイルスに基づくパンデミックワクチンを全国民が半年以内に接種できるような緊急製造体制の早期整備」を挙げた。

また、今回のインフルエンザの発生の間も、強毒型鳥インフルエンザの大流行の可能性は減っていないと指摘したうえで、その影響について、「致死率は5〜15%(1.8億人〜2.5億人)、世界GDPは初めの1年間で5〜6兆ドル(4.8〜5.5%)の減少」と世界銀行やWHOの推計を示し、「現代の生活環境では、ウイルスは1週間以内に全世界に伝播する」と、人的・社会的被害の大きさを指摘。さらに、「新型インフルエンザ対策は、国全体および国際的な対応・協力が必要となる危機管理である」と述べた。また、今回の教訓として、「過剰対応のみが強調・批判され、また季節性インフルエンザ程度との誤った安心感により対策の本質が見失われる懸念」を挙げ、「強毒型鳥インフルエンザは必ず発生するとの前提に立ち、ワクチン対策をはじめ十分な事前準備をすることが、社会機能・経済活動を破綻させないために大切である。必要な行動をとらなければ、歴史上の大失策となる」と強調し、今後の注意を促した。

【経済政策本部】
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